表紙目次文頭前頁次頁
表紙

緑の騎士 -103-
「どこだ?」
 ディルクが不審そうに尋ねると、ヨアヒムは頬をゆるめた。
「ヤーコブが焼き払ったマルシュナーの館さ。 ペーターから聞いたぞ」
「だがあそこは、文字通り丸焼けで……」
「たしか庭の外れに半地下の食料庫があったはずだ。 抜け目ないヤーコブだから、その中も調べているだろう。 一度見回ったところには、二度と行かないものだ」
「おまえも知恵が回るようになったな。 前は荒っぽいだけだったが」
 ディルクは感心した。


 ディルクともう一度固く抱き合った後、マリアンネは再び馬車に乗り、クルトと道案内のペーターに付き添われて、マルシュナー邸へ向かった。
 『緑の騎士』達は、更に半時間かけて、これからどうするか話し合った。
「部下の兵士は、とりあえず中庭に集合させ、兵曹長のブロイルに待機を命じておいた」
 ロタールがてきぱきと告げた。
「ブロイルは信用できる。 だが、兵士はもともとヤーコブに雇われたのだし、戦いが始まったらどちらに付くか予断はできない」
「そもそも我々だって本来はヤーコブの臣下だぞ」
 ヨアヒムが混ぜ返した。
「それがエドムント様側について戦うんだから、昔の仲間から裏切り者扱いされても仕方がない」
「我々は『マリア姫』を守るんだ」
 ロタールが強調した。
「彼女は、我々の正当性とヤーコブの嘘を証明する大切な生き証人だ」
「そのとおりだ」
 ディルクが静かに言った。
「そして今、我々が守るべきはエドムント様だ。 マルトリッツ城へ戻り、エドムント様とグロート夫人をうまく納得させて、城の護りに加わろう」
「納得? 丸め込むんだろう?」
 遠慮なく、ヨアヒムが応じた。
「それならロタールがぴったりだ。 マリアンネとマリア姫を逆にするのを忘れるなよ」
「任せておけ」
 爽やかな表情で、ロタールは胸を叩いてみせた。




 ヤーコブの使いがマリア姫の棺を引いて、急がずに立ち去ってから、既に三時間の余が過ぎた。
 晴れた空は東から鉛色に染まり、西の地平線にわずかな赤い線を残すだけになった。
 城の庭には大きなかがり火が幾つも焚かれ、武装した男達が忙しく動き回った。 外が漆黒の暗闇になれば、戦いが開始されるのはもう時間の問題だった。






表紙 目次前頁次頁
背景:Star Dust
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送