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マリアンネは、肘を取ったヤーコブの手を、静かに、しかし断固として引き剥がした。
こんなぶしつけな言い方をされるとは思わなかった。 一族の女子の婚姻を決めるのは家長の権利だが、それにしても、この言い方は……。
マリアンネがムッとしたのを見てとって、ヤーコブは耳元に口を近づけ、素早く囁いた。
「彼らにはこれからも世話になるのだから、よく考えろ。 誰も選ばなければ、侮辱したことになるぞ」
確かにそうだった。 やむを得ず、マリアンネは頭を絞った。
――シギーには好きな人がいるし、ヨアヒムはたぶん気まずいだろう。 選べるのはディルクしかいない。
でも彼は、こんなことには関わりたくないはずだ。 おべっか使いじゃないもの。 本心をずばり言ってしまうタイプだし――
そうだ、断わってもらうなら、彼しかない!
わずかな望みを託して、マリアンネは顔を上げ、ディルクの名を小声で告げた。
ヤーコブの表情に、明らかな驚きが浮かんだ。
三人に向き直ると、ヤーコブは簡単に言った。
「ディルク、おまえだそうだ」
数秒間、ディルクは無言だった。
それから、普段通りの口調で言った。
「お断りします」
「なっ……!」
予想もしなかったのだろう。 ヤーコブは狼狽し、みるみる顔色が変わった。
「断わるだと? おまえ……」
あわててマリアンネが仲裁に入った。
「怒ることはないでしょう? 急に妙なことを言われて、驚いただけですわ。
私もびっくりして、なんだか胃のあたりがおかしくなりました。 心の準備ができるまで、部屋に帰って休んでいいですか?」
ヤーコブは、手を握ったり開いたりして、落ち着こうとしていた。
「まあ……いいだろう。 だが、自分の部屋へ戻るのは駄目だ。 その姿を人に見られる。 あちらの部屋へ行きなさい。 食事は届けさせるから」
婚礼に出立する日まで、逃がすまいとしているな。 マリアンネにはすぐピンと来た。
しかし、もう決心はついていた。 このとんでもない計画を聞かされた直後から、少しずつ不快な気持ちが積み重なって、今では破裂寸前にまで高まっていた。
誰がおとなしく、隣国の後妻になんかなるものか。 絶対に逃げてやる。 方法も、すでに着々と頭で組み立てられていた。
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