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リネットの海
70
リネットは眉を寄せて考えた。
「彼らは、私があなたをハワードさんだと思い込んでいるとは知らなかったようよ。 ただ普通に、父の居所を教えると言っておびき出しただけ。
ちゃんと確かめなかった私が悪いの。 ただ、父の名を出されたら、罠とわかっていても行ってしまったかもしれないわ」
「止めてくれ! 心臓に悪い」
苦しげに呟くと、ロルフはリネットの巻き毛に顔を埋めた。
太陽の照り返しが熱くなりかけていた。
二人は木陰を求めて、医院の中庭に入り、オリーブの下にある小さな木のベンチに腰かけた。
話すことはいくらでもあった。 たとえば、どうやってロルフは危機一髪リネットとマーカスの居場所にたどり着いて助けることができたか。
「君が夕食時になっても降りてこないから、部屋に行ってノックしていたら、たまたま通りかかったボーイが言ったんだ。 そこのお嬢様はさっき通用口の方へ行かれましたって。
嫌な予感がして飛んでいった。 庭と裏の道を探しながら歩くと、海沿いの柵にショールが引っかかっているのを見つけた。 あんな上等なショール、漁師のかみさん達が使っているわけがない」
「それで、私が攫われたと?」
「すぐにそう思った。 それで、いったん引き返してパーシーおじさんに知らせ、警察に捜索隊を出してもらったんだ」
「でも、あの廃工場の隠れ家がよく見つけられたわね」
「幸運だった。 暴走する馬車がいたと広場の人に聞いた直後、あいつがその馬車で戻ってきたんだ。 ほら、サンタンデールの裏道で君を探していた若い男」
「顔を覚えていたのね!」
たしかロルフは、赤白ベストの男を一度チラッとしか見ていないはずだ。 観察眼の鋭さと記憶力のよさに、リネットはますます彼を頼もしいと思った。
ふっと笑って、ロルフは話を続けた。
「あいつは下っ端で、ちょっと締め上げたらすぐ口を割った。 現場まで案内させて、ぎりぎり間に合ったというわけだ」
「危なかったのね、私達ほんとうに」
今更ながら、リネットは自分の幸運を悟った。
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トリスの市場
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