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リネットの海
67
「ランコフ……さん?」
紹介された男は、きちっと踵を揃え、軍隊式に頭を軽く下げた。
きょとんとしているリネットに、ダニエルがごく普通の調子で爆弾宣言した。
「実はね、俺たちはマダムのお供じゃないんだ。 アントンはベラトニア貴族との、俺はイギリスのある将軍との、隠し子なのさ」
表面明るく振舞ってはいるが、まだ昨日のショックを引きずっているリネットは、このとんでもない告白に貧血を起こしそうになった。
「何……何ですって?」
アントンが片笑窪を浮かべて振り向いた。
「わたし達二人とも、シャンタル・ラディーンの子供」
ワ―――ッ!
リネットは、手探りで近くの椅子を探して、坐りこんだ。
「二人とも……?」
「そうなんだ。 俺たち二十歳と十八だ。 こんな大きなガキがいたら、シャンタル・ラディーンのイメージが壊れるだろ?」
「でもマダムはちゃんとした優しい母だ。 月に二回は学校に手紙くれたし、休暇には必ず連れ出して遊んでくれた。 できるだけ子供を傍に置きたくて、今はわたし達連れ歩いてる」
リネットは、明るい青年たちをじっと眺めた。 そのうち、驚きは次第に醒めて、暖かい気持ちに変わっていった。
「いつからラディーンさんと一緒に?」
「二年前だ。 俺勉強嫌いでさ、大学行くの止めて役者になりたいってマダムに言ったんだ。 そしたら、シェイクスピア四大悲劇のセリフを全部覚えたら見習いにしてやると言われてさ、今修行中。
アントンは、その半年後にドイツの寄宿舎から逃げてきたんだ」
「いじめ?」
二人の兄弟は顔を見合わせ、爆発的に笑い出した。
「相手はそう思ったかもな。 寮長が親の身分をかさに着て威張りちらしてたんで、アントンがボコボコにしてやったんだと」
見るからに強そうなアントンの太い腕を見て、リネットはすぐに納得し、笑いの輪に加わった。
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