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リネットの海
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リネットはショックを受けて、青い顔になった。 その様子を気遣ったパーシー卿は、馬車を降りてバンガローで休むことを勧めた。
「仮住まいだからお粗末だが、日光を遮るし、雨風も防いでくれるよ」
緩やかな斜面を少し上がったところに、バンガローはあった。 パーシー卿はあばら家のようなことを言っていたが、どうしてなかなか立派で大きな平屋建てで、屋根つきの広いテラスが、リネットには新鮮に見えた。
隣りには、しっかりした造りの道具小屋も付属していた。 普段のリネットなら好奇心一杯で覗くところだが、今は一刻も早く、父の部屋に行きたかった。 他人にはわからなくても、父の癖をよく知っている娘の目で調べれば、行き先の手がかりが掴めるかもしれないと思った。
バンガローの奥には、二つ独立した部屋があって、一つはパーシー卿用、そしてもう一つがマーカス・チェンバース用だった。
卿の案内で中に入ってみると、部屋は薄暗く、気持ちのいい涼しさだった。 、細い棚には、書類や図面が仕分けして入れてあり、何の飾りもない実用的なデスクには、ペン立て、インク瓶、吸い取り紙などの筆記用具が無造作に置かれていた。
とても日常的な光景だった。 荷造りの跡はないし、服は棚の下に数枚かけたままだ。 今すぐにでも扉が開いて、マーカスが戻ってきて不思議はなかった。
リネットの視線は、隅に置かれた簡易ベッドに向いた。 薄い布団が、起きたばかりのようにくしゃくしゃになっている。 マーカスは割と几帳面で、こんなに寝所を乱したまま出かけることはないはずだ。 眉をひそめたリネットは、近づいてめくってみた。
すると、掛け布団の下から黒の小型バッグが出てきた。
リネットの表情が、見る間に強ばった。
「そんなはずないわ」
「え?」
棚に寄って、書類を調べていたパーシー卿が振り向いた。
「父はいつも、このバッグを持ち歩いていました。 ご存じですね?」
リネットの差し出した薄い箱型のショルダーバッグを、パーシー卿はしげしげと眺めた。
「そうだ、その通り。 彼は必ずこれを肩にかけていたよ」
「どこへ行くにしても、これを持っていかないはずはないんです。 それに、こんなにだらしなく開けっぱなしにしたりしないし」
紐の付け根を見て、リネットは息を呑んだ。
「見てください! 取れかかってます! 乱暴に引きはがされたんだわ!」
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トリスの市場
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