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リネットの海
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共通の知り合いがいたため、それからは更に会話が弾んだ。
「マンザーニさんは面白い人で、船乗りが見た海坊主の話をしてくれたわ」
「うん、彼は話が上手だ。 髭が赤くて縮れているんだよな」
「そう、その通り!」
この人は信用できると、リネットはますます確信を持った。 ハワードの住む世界は、リネットの世界と一部重なっているのだ。 それがどの程度の重なりか、このときのリネットにはまだ半分もわかってはいなかったが。
イギリスと違って、天気は一日中穏やかで変わらなかった。 退屈なぐらいの青空が次第に暗さを増していくころ、馬車は石畳に囲まれた次の宿に到着した。
ここは、前の農家風の宿屋より立派な、ちゃんとした旅館だった。 それで、ハワードはボロ帽子を脱ぎ、リネットも茶色のマントを荷車に置いて、普通の身なりで宿帳に名前を書いた。
『R・O・ハワルド様と妹様ですね。 二階の続き部屋が空いておりますが。 はい、21号室と22号室です』
巻き舌の支配人から鍵を渡された後、ハワードはさりげなく尋ねた。
『レイノサの付近で馬車を壊してしまって、荷馬車を買ったんだが、乗り心地が悪い。 この辺りで、御者付き二人乗りの馬車を貸してくれるところはないかな』
『前金でいただけるなら、うちでお貸ししますよ』
『それはありがたい。 明日の朝に出発できるよう準備しておいてくれ』
会話はすべて、流暢なスペイン語で行なわれた。 案内係が荷物を下げて階段を上がる後からついていきながら、リネットは横のハワードを見上げて囁いた。
「現地の人みたいにスペイン語が上手じゃない?」
「そんなことはないさ」
おだてには乗らないハワードに、更にリネットは問いかけた。
「何を話していたの?」
「もっと乗り心地のいい馬車を貸してくれって」
リネットはほっとした。
「普通の旅に戻るのね。 もう安全だってこと?」
「ああ、たぶん。 誰も尾けてこなかったようだからね」
そう答えて、ハワードは野性的な笑みを浮かべた。
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トリスの市場
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