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――ラミアンの怪物――

Chaptre 64

 伯爵は小声で言ったが、ヴァランタンは聞き漏らさなかった。
「二人とも? それはどういう意味ですか? まさかブランシュに何か……」
 顔色が青ざめた。 この前ブランシュ姫に会ったのが二日前。 あのときは元気そうだったが、もしや容態が急変して……!

 伯爵はラプノーと目を見交わした。 ラフノーがかすかに頭を下げ、伯爵も頷いた。
 短く咳をしてから、伯爵はぽつぽつと話し出した。
「お前には言いにくかったのだ。 あんなに一生懸命に守っていたからな。
 だが、いつかは真実を語らなければならん。 われらの深い悲しみと、犯人にかけた罠とを」
「罠?」
 ヴァランタンの胸が、奇妙に騒ぎ始めた。
 伯爵は目を押さえ、ラプノーに後を任せた。
「わしには辛い。 おまえ話してくれんか?」
「はい」
 ラプノーは一歩前に進み出て、深い眼差しでヴァランタンを眺めた。
「跡継ぎかどうかにかかわらず、ヴァランタン様は立派な方です。 姫のために体を張って尽くされた。 ですが悲しいことに、姫は最初の、あの鈎爪の攻撃で、すでに亡くなっておられたのです」

 ややあって、ヴァランタンは思い切り息を吸い込んだ。
「では、わたしが会った姫は……」
「姫ではなかったのです。 生きていると見せかけるために、包帯を巻いてベッドに寝ていた、囮〔おとり〕の娘でした」
「名前は?」
 不意にヴァランタンが迫ったため、ラプノーはたじろいだ。
「お怒りはわかります。 でも彼女は誰よりも姫様を慕っていて、どうしても犯人を突き止めたいと自ら申し出、命の危険を冒して囮になったのですから……」
「いいから教えろ! 彼女の名前は!」
 気の進まない様子で、ラプノーは告げた。
「ガランス・リボーです。 小貴族の子で、姫様によく似ているため、影武者として城に雇われたのです」
「彼女は怪我などしていないんだな?」
「していません。 ベッドに槍と剣を持ち込んで、犯人が再び襲ってきたら、自分で殺すつもりでいたぐらいですから」
「ああ」
 ヴァランタンは眼を固くつぶって天井に顔を向けた。 妹の死の悲しみと同時に、津波のような幸福感が襲ってきて、複雑な感慨に胸が大きく波立った。






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