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表紙


――ラミアンの怪物――

Chaptre 63

 ヴァランタンは、もう目もほぼ開いていられないほど疲れていた。 だが、ラプノーたちをいつまでも探し回らせるわけにはいかない。 通路の窓についた鎧戸を開けて、下のかがり火を探した。
 既に雪は止んでいた。 一面に白くなった表庭に、大きな炎が揺れているのが見えた。
 身を乗り出して口に手を当て、ヴァランタンはできるだけ大声で呼んだ。
「見つけたぞ〜! 逃げた犯人は、ここで死んだ〜!」
 たちまち、庭に数人の男たちが走り出してきて、窓を見上げた。
「魔女は死にましたか〜?」
「確かに命を落としたぞ〜!」
 ほっとした空気が流れ、嬉しそうに手を振る姿もあった。 やがてラプノーが城内から現れ、ヴァランタンを認めると、首を垂れて謝意を表した。
「感謝します! 今すぐそちらへ行きます」
「頼む。 もう一歩も動けない」
 自分だけに聞こえるように呟くなり、ヴァランタンは壁に背を向けて、ぐったり寄りかかった。


 疲れを知らないラプノーは、軽々と上がってきて、ヴァランタンの話を聞いた。
「オーレリー・バトンは、逃げる気持ちなんかなかった。 死を覚悟の上で、わたしに復讐したかったんだ」
「兄の仇として、つけ狙ったんですね」
 階段下で石弓を拾い上げて、ラプノーはやりきれない様子で首を振った。
「奴らの部屋と水晶の間を捜索して、すべての武器を取り上げたと思ったが、まだこんな物をどこかに隠していたのか……。 八つ裂きにしても飽き足らない。 簡単に死なせたのが惜しいほどだ」
 それから慌てて、ヴァランタンに向き直った。
「いや、お命が助かって本当によかったです。 助けた者の顔をご覧になりましたか?」
「いや、薄暗い上に逆光で、女としか見分けられなかった。 しかも、なぜかあっという間に消えてしまった」
 女、と呟いて、ラプノーは真面目な顔になった。
「女……ですか」
「心当たりがあるのか?」
「いえ」
 その答えは早かった。 早すぎるぐらいだった。


 悪魔の軽業師、ネッケル一座の座員は三人。 その全てが絶命したことで、ようやく城に本物の平和が訪れた。
 伯爵は泥酔して寝入っていて、いくら起こしても翌朝遅くまで目覚めなかった。 しかし、周りがうるさくて睡眠不足だとぶつぶつ言いながら起きてきて、昨夜の騒ぎを聞いて愕然となった。
「なんという失態! 一度は捕らえた者にまんまと逃げられただと? しかも、ようやくこの手に取り戻した息子を狙われるとは!」
「申し訳ありません」
 ラプノーは小さくなった。 活気を取り戻したヴァランタンが部屋に来なかったら、どこまで叱られたかわからない。
 とりあえず父の若い頃の服をまとって、ヴァランタンは元気に伯爵の執務室に入って来た。 そして、怒られているラプノーに口添えした。
「わたしが悪いのです。 ラプノーはもっと厳しくしようとしたのですが、素直に白状したのでつい手加減してしまって」
 伯爵は肩を落とした。 侘しい声が言った。
「わしが最も悪いのかもしれん。 あの女の正体を見抜けず、妻に迎えてしまった、このわしがな。 そのせいで、大切な子供を二人とも失うところだった」






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