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――ラミアンの怪物――
Chaptre 60
酒を飲み交わしながら、ヴァランタンはオーレリーの取り調べをユステール伯に話した。
伯爵は、最後まで黙って聞いていた。 そして、ヴァランタンが話し終わると、意外なことを淡々と言った。
「姫が襲われたと知ったとき、妻が旅役者に命じたのではないかと、すぐに思った」
ヴァランタンの目が、驚きに拡がった。
「初めは、可憐でしとやかなシモーヌに夢中だった。 先妻を失って寂しかったし。
だが、次第にあの女が怖くなった。 特に最近は様子がおかしかった。 夜中に目を覚ますと、ナダールと二人でじっと覗きこんでいたことがあってな。
翌朝尋ねると、悪い夢でしょうとごまかしよったが、あれはきっと、わしを始末しようとして途中で止めたのだ」
「子供ができたから、もう父上がいなくても城の実権を握れると思ったんでしょう。 だが、無事に赤子が生まれるとはかぎらない。 それで、産んだ後にしようと心を変えた」
「そういうことだったのだろうな。 あの夜の目つきは凄かった。 吊り上がって、鬼火のように妖しく光っていた……」
身震いして、伯爵は一気に盃をあおった。
やがて伯爵は、酔いつぶれて寝てしまった。 侍従たちがベッドへ担ぎこむのを見とどけてから、ヴァランタンは部屋を後にした。
新しい住処となった彼の寝室は、本塔の四階にあった。 幼いころに使っていた部屋だというが、全然覚えがない。 立派だけれど広すぎて、暖炉を焚いても寒々としていた。
その寝室へ行くために、物思いにふけりながらヴァランタンが廊下を歩いていると、カッカッという足音がして、階段をラプノーが駆け上がってきた。
ヴァランタンを見たとたん、彼は走り寄って、抑えた声で告げた。
「大変です! あの女が逃げました!」
ヴァランタンは棒立ちになった。
「鎖で厳重に壁につないでおいたのに?」
「牢番が不覚を取ったのです。 あんなに注意したにもかかわらず、あの女に近づいて術にかかったようです!」
ヴァランタンは激しく首を振り、酔った頭をはっきりさせようとした。
「そうか、あんなにたやすく告白したのは、こちらを油断させるためだったのか」
「寝る前に警備を確かめようとして、地下に下りていくと、牢が開けっぱなしで、牢番二人が殺されていました」
ラプノーはぎりぎりと歯噛みした。
「祝宴で兵士たちはみな酔いつぶれていて、使い物になりません。 女悪魔をむざむざ逃がしてしまうのかと思うと」
「オーレリーは軽業ができるからな。 もう城の外へ出ていると思うが、念のため、前に奴らが逃げるはずだった西の門に行ってみてくれ」
「わかりました!」
明確な指示を得て、ラプノーはほっとしたように、階段を駆け下りていった。
怒りの持っていき場のない思いで、ヴァランタンは向きを変えた。 尋問のとき、ラプノーに気のすむまで殴らせればよかったと思った。 そうすれば、さすがのオーレリーも動けなくなっただろう。
乱暴な足取りで、一番下の段に靴先をかけたとき、上から声が降ってきた。
「止まれ!」
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