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表紙


――ラミアンの怪物――

Chaptre 57

 思わずヴァランタンの眼が輝いた。 ミシェル・ラプノーの背後から上半身を乗り出すようにして、彼は勢いよく尋ねた。
「では、聞かせてもらおう。 姫の誕生日の晩、城で興行したという道化師一座、あれはお前達三人だったのか?」
 オーレリーの口の端に薄笑いが浮かんだ。
「そうだよ、もちろん」
「で、熊は?」
 ラプノーが咳き込んで訊いた。
「お前達に熊を飼いならす時間と場所があったか?」
 こらえきれなくなって、オーレリーは体を折って笑い出した。
「ぷはははは…… まだそんなことを考えていたのかい。 間抜けだねえ」
「なんだと!」
 色をなして詰め寄るラプノーへ、オーレリーはまだ笑いながら、なだめるように手を出した。
「ごめんよ、あまり入れ替わりがうまくいったもんで、つい可笑しくてね。
 もうわかってる通り、ネッケル一座なんてものは最初からなかった。 馬車は古い荷馬車に絵の具を塗って飾りつけたもので、後で色を落として元の場所に戻しておいたさ。
 熊だってそう。 初めから、存在していなかったのさ」
「いなかった? あれも絵か?」
 ラプノーは戸惑い、顔をくしゃくしゃにしてあの夜の興行を思い出そうとした。
「いや、そんなはずはない。 あの熊は確かに幕の後ろにいた。 動いていたし、唸っていたぞ」
「表側だけはね、そう、表はあったよ。 上っ面だけは」

 ヴァランタンが先に気付いた。
「熊の毛皮を着て、人間が演じたということだな?」
「そう、その通り」
 からかう口調で、オーレリーは頷いた。
 ラブノーはまだ納得がいかなかった。
「だが、舞台には三人だけだった。 主役の道化がクレマン、つまりお前の兄のティモテだったんだろう?」
「そうさ。 で、相手役がジャキヤ。 流れ者のジプシーだった男」
「ナダール警護官と名乗っていた奴だな。 そして、背が低い熊の飼育係がお前。 熊が現れたとき、三人とも舞台の上にちゃんといたぞ。
 おかしいな。 もう一人共犯がいたのか?」
「いないよ。 仲間は少ないほど秘密が保てるってもんだ。 何もかもぜんぶ、三人だけでやったのさ」
 ラプノーは混乱して、黙ってしまった。






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