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――ラミアンの怪物――

Chaptre 56

 その日の夕食は、一挙に祝宴となった。 城乗っ取りの野望を巡らしていた一味のうち、男二人はすでに死んで、見せしめのために裏庭へ吊るされ、女は牢獄へ入れられた。 その上、事件を解決する鍵となった若者が、実は領主の跡継ぎだとわかったのだ。 城を覆い隠していた暗雲が一挙に去り、外は雪だが中は夏の午後のように光り輝いた。

 兵士や騎士だけでなく、下々の者たちにも、酒と料理が惜しみなく振舞われた。 もうびくびくする必要がなくなって、皆歌い、踊り、石の床が揺れるほどドンチャン騒ぎをした。
 特にはしゃいでいたのが、馬屋番の頭カピュランだった。 彼は両脇に酒壷を挟み、誰彼なく祝杯を上げながら、大声でわめいていた。
「わしが、いいか、このわしが、あの子、じゃない跡継ぎのヴァランタン様を雇ったんだぞ! わしの目が高くなかったら、お城に平和はおろか、若殿だって戻ってこなかったんだぞ!」

 一方、当のヴァランタンは、晩餐の最初に父に紹介されて、皆の祝福を受けただけで、ほとんど料理に手をつけず、ミシェル・ラプノーと共に食堂を後にした。
 二人が副官のブレソールと向かったのは、西の塔の地下牢だった。 鉄は熱いうちに打てという。 計画が挫折し、最愛の兄を失った直後で、さすがのオーレリーも落ち込んでいるはずだ。 今なら拷問なしでも、企みの全貌を話すかもしれないと、ヴァランタンは僅かな望みをつないでいた。 いざとなると女のほうが男よりしぶとくて、なかなか口を割らないと知ってはいたが。


 真っ暗でカビ臭い地下牢の中に、オーレリーはきちんと坐っていた。 副官が松明をかざして先に入ると、眩しげに手で顔を覆ったが、立ちはしなかった。
 続いて入室したラプノーが、厳しい口調で言った。
「さあ、オーレリー・バトン、どうやって城に入り込み、姫様を襲ったか白状しろ。 素直に話せば特別な温情で斬首刑にしてやる。 口を割らなければ火あぶりだぞ」
 少し灯りに目が慣れてきたのか、オーレリーはゆっくり手を下ろした。 そして、ラプノーよりも、その後ろに無言で立っている若者に注意を向けた。
「おや、ずいぶん上等な服を着せてもらったねえ。 兄さんを殺して出世したのかい?」
 ラプノーが眉をしかめて怒鳴りつけた。
「偉そうに言うな! この方はアンリ・メイヨーとして育てられたが、実は城主のさらわれた跡取り、ヴァランタン様だと判明したのだ!」
 オーレリーは、数秒間ヴァランタンの魅力的な顔に視線を釘付けにしていた。
 それから、低く笑い出した。
「まあ、何てことだろう。 本当だったんだね、アンリ・メイヨーは貴族の子供っていうあの噂は」
「こんなに強くしっかりした方になって戻られた。 妃に化けた女狐も捕まった。 これでお城は安泰だ」
 胸を張るラプノーを皮肉な目で見上げ、オーレリーは意外な言葉をぽつりと口にした。
「もう悪あがきしても無駄なようだね。 いいよ、何もかも話してやろう」






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