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――ラミアンの怪物――

Chaptre 55

 メイヨーは、一瞬ためらった。 あまり気が進まないようにのろのろと、襟に手を入れて鎖を手繰り、首から外して差し出した。
 半円形のペンダントを受け取って、ユステール伯はしばらくじっと見つめていた。
 それから、自らの首にかけていた鎖を取り、その端に下がっていた飾りをメイヨーのものと並べた。
 二つは、ぴたっと合わさって、炎の光輪を広げる太陽の紋様を、くっきりと浮き出した。

 ラプノーの口から、驚きの溜め息が漏れた。 十五年ぶりにめぐり合った二つのペンダントを凝視したまま、伯爵はメイヨーに命じた。
「左の袖をまくってみろ」
 石のように無表情なまま、メイヨーはゆっくりと袖をたくしあげた。 伯爵は、ペンダントから目を離さずにラプノーに言った。
「胸が割れそうだ。 わしには見る勇気がない。 そなたが調べてくれ。 肘の内側に、何が見える?」
 二歩近寄って、ラプノーはメイヨーの腕を観察した。 そして、目に入ったものを報告した。
「赤い痣〔あざ〕があります。 小さな鳥が飛んでいるような」
「ああ……」
 突如ユステール伯はよろめき、祭壇の柱につかまった。 やつれてざらついた頬に、一筋の涙が流れ落ちた。
「奇跡だ……聖トマ様の尊いご加護だ……ヴァランタン、ヴァランタン!」
「ヴァランタン様? この……この方が?」
 あっけに取られているラプノーの前を抜けて、伯爵はメイヨーに近づき、立ち尽くしている若者を両腕に抱いた。
「ヴァランタン、わしの大事な息子……失ったとばかり思っていた。 こんなに見事に育って、またこの腕に抱きしめることができるとは……」
 メイヨーは、固い唾を飲み込んだ。 表情はあまり変化せず、むしろ当惑したようにさえ見えた。
「わたしが……? 本当でしょうか?」
「まことだとも! この痣が何よりの証拠だ! 生まれたときからこの形だった。 よく覚えている」
 今度こそしみじみとメイヨーの腕を眺めながら、ユステール伯は断言した。

 騎士の一人が、城内に住んでいるヴァランタンの乳母を呼びに行った。 彼は、路すがら出会った人間すべてに、ヴァランタン発見の奇跡をしゃべって回り、噂はあっという間に城を駆けめぐった。
 中年になってすっかり太った乳母は、ぜいぜい言いながら、騎士に手を引かれてやってきた。
 そして、メイヨーを一目見ると、両手を打ち合わせて叫んだ。
「まあ! 先の奥方様そっくり!」
 腕の痣を見たとたん、彼女も泣き出した。 顔中を涙まみれにしながら、乳母はその痣にキスし、メイヨーの頬を撫でた。
「お別れしたときは、私の腰までしかお背がなかった。 それが見上げるほど大きくなって、なんて立派なお姿に」


 こうして、二人の証人に確認されたメイヨーは、名実共にヴァランタン・ダンドレとして、ユステール伯爵の正式な跡継ぎと認知された。







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