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――ラミアンの怪物――

Chaptre 54

 オーレリーは、西塔の牢獄へ連行されることになった。
 その前に、メイヨーはラプノーに頼んだ。
「この女は術が使えるようです。 牢番がたぶらかされないよう人数を増やした上、決して牢獄の中を覗かないようにお命じ下さい」
 ラプノーは頷きながら聞き、弟に命令を下した。
 ジャン・ピエールに先導されて護送隊が出ていった後、持ち場に帰ろうとするメイヨーを、ラプノーが呼び止めた。
「お前は他所から来たばかりだが、大変な働きをしたな」
「ありがとうございます」
「それで、殿様にお目通りをさせたいと思うのだが、礼拝堂へ来てくれないか?」

 驚いて、メイヨーは目を上げた。 心なしか、ミシェル・ラプノーの言葉遣いがやや丁寧になっている。 態度もきちんとしていた。
「わたしが、お殿様にですか?」
 そう言って連れていって、口封じに自分も牢屋へ放り込まれてしまうのではないかと、メイヨーは不安になった。
 彼が用心しているのを見て、ミシェル・ラプノーは安心させようと言葉を継いだ。
「姫様が殿にお前のことを話したのだ。 お会いしたほうがお前のためになる。 さあ、行こう」


 まだ外は雪が振りしきっていた。 メイヨーが汚れたシャツ一枚で寒そうなので、ラプノーは副官からマントを借りて着せてやった。
 石畳の中庭を抜けて向かった礼拝堂は、そう大きくなかったが、縦長の窓三箇所に美しいステンドグラスがはめ込まれていて、荘厳な雰囲気だった。
 内部へ入ると、木のベンチに座っていた数人の騎士が、一斉に立ってラプノーに頭を下げた。
「殿は?」
「あちらで祈っておられます」
 奥行きの深い礼拝堂では、祭壇は相当離れて見えた。
 ラプノーはメイヨーを伴い、長い通路を早足で進んでいった。 すると間もなく、太い柱の向こう側で、クッションの上に片膝を置き、頭を垂れて祈る男性の姿が見えてきた。
「殿」
 ラプノーがそっと呼びかけると、男性は豪華な白テンのマントをひるがえして立ち上がった。 その目は、ラプノーではなく、横に控えたメイヨーに向いた。 五秒ほどじっと観察されて、メイヨーは居心地が悪くなり、目立たぬように後ろへ下がった。
 ラプノーは一礼した後、低い声で報告した。
「男は成敗しました。 女のほうは、捕らえて西塔の地下牢に入れました」
「よくやった」
 沈痛な面持ちでうなずいたユステール伯爵は、また視線をメイヨーに戻して、尋ねた。
「この若者が、アンリ・メイヨーか?」
「そうです。 彼は、ジャン・ピエールを助けて犯人逮捕に功績を上げました」
 深く頭を下げたメイヨーに、伯爵は更に質問を浴びせた。
「そなたもよくやった。 だが、恩賞を決める前に、一つ尋ねたいことがある。
 子供のころから首にペンダントを下げているそうだな? それを見せてはくれないか?」






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