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――ラミアンの怪物――

Chaptre 49

 果敢なラプノーは、一しきり口惜しさを爆発させると、すぐ次の行動に移った。 床に崩れているクレマンにはもう見向きもせず、早足で出口に向かいながらメイヨーに指示した。
「これから手勢を分けて、城の捜索にかかる。 お前は水晶の間に戻り、弟のジャン・ピエールを連れてヴィラールの元へ行ってくれ。 頭数が足りないんだ。 侍従や下働きたちをヴィラールに集めさせろ!」
 珍しくすぐに答えずに、メイヨーは口の中で何か呟いた。 苛立っているラプノーは、顔を歪めて怒鳴った。
「なに? 左手のすることを右手は知らないだと? くだらないことをぶつぶつ言う暇があるなら、急げ!」
「はい」
 気合の入らない声で返事すると、メイヨーは踵を返して、ラプノーの後に従った。

 戸口で、二人は反対方向に分かれた。 ラプノーは左の本階段へ。 そしてメイヨーは右の部屋へ。 腰を抜かしていたルベルも、転げるようにラプノーの後を追った。

 隠し扉の前でうずうずしていたジャン・ピエールは、メイヨーが現れたのですぐ身を起こし、大股で歩み寄ってきて囁いた。
「どうした? 捕まえたか?」
「いえ、まだです」
 メイヨーは、妙に落ち着いた様子で答えた。
「でも、あのくぐり戸を使えば、捕らえられるかもしれません」
 たちまちジャン・ピエールの目が光を増した。 いつも兄に頭を押えられているジャン・ピエールは、自力で手柄を立てたくてたまらないのだった。
「ほんとか? どうやって!」
 指先でくぐり戸を動かしてみて、音がしないのを確かめてから、メイヨーはささやき声で事情を話した。
「向こうの部屋では、このくぐり戸の前に大きな衝立が置いてあって、出入りを見せないようになっています。 ですから、そっと忍び込めば、衝立の陰に身を隠して、部屋の様子を聞き取れます」
「そうか、でもなぜ部屋に隠れて……」
 シッ、と、メイヨーは口に指を当てた。 そして、まず自分がくぐり戸をするりと抜け、がっしりとした木製の衝立の裏に立った。
 すぐにジャン・ピエールも後についてきた。 隣りの部屋は、窓も扉もまだ開けっぱなしで、凍りつく風が、時おり音を立てながら吹き込んでいた。

 間もなく、がさごそと人の立ち上がる気配があった。 みんなに置いていかれたクレマンだ。
 それとほぼ同時に、コトッと木の擦れる音が聞こえて、女の声が響いてきた。
「早く窓を閉めなよ。 体の芯から冷えて、くしゃみしそうになったよ」

 メイヨーと並んで聞き耳を立てていたジャン・ピエールの目が、大きく見開かれた。
 クレマンは、まず廊下へ通じる扉を閉め、それから窓をギシギシと閉じた。
「大声で文句を抜かすんじゃねえ。 廊下を通りかかった召使どもに立ち聞きされたらどうする」
「もう全員行っちまったよ」
 女は楽しそうに言った。
「あいつらはまたバカ面下げて、城中を探し回るのさ。 熊のときとおんなじだ」






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