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表紙


――ラミアンの怪物――

Chaptre 48

「弓がうまいようだぞ、あの女。 気をつけろ」
 扉の横にぴたりと張り付いて、ラプノーは横に並んだメイヨーに注意をうながした。
 棍棒を握りしめたクレマンが、その言葉を漏れ聞いて、のぼせてしまった。
「女? 中に潜んでいるのは女なんですか? そんなもの、このクレマンが一撃で退治してくれよう!」
「待て! 女といっても並みの女とは……」
 みなまで聞かず、クレマンは頭を低くして、まるで闘牛のように、半ば開いた扉から突入した。
 すぐにヒュッヒュッと矢が飛び交う音が響いた。 次々と扉に当たるので、他の者がクレマンを加勢に行きたくても危険で入れない。 中からは、喉に詰まった女の罵り声が聞こえてきた。
「そばへ来るな。 寄るでない!」
「お前は誰だ! よくも姫様を襲ったな!」
 クレマンも負けずに言い返した。 とたんにまた矢が放たれた。
「うっ……」
 遂に撃ち抜かれたらしい。 悲痛なあえぎを聞いて、ラプノーは我を忘れ、扉を破るようにして中へ飛び込んだ。
 すぐ後から、松明を大きく振り回してメイヨーが続いた。 ルベルは腰を抜かしてしまって、ドアの端にしがみついて震えていた。

 激しく揺れる松明の灯りに、部屋の景色も悪夢のように揺れ動いた。 この部屋は、前王妃の居間だったらしく、暖炉の前に椅子三脚と四角い小テーブルがあり、右の壁際には獅子と一角獣を描いた衝立が、左にはいくつかの衣装箱が乱雑に置かれていた。
 床の真ん中には、クレマンがただ一人座り込み、脇腹に刺さった矢を抜こうとしていた。 他には誰もいない。 窓が大きく開いて、降り続ける雪が光の筋を引いていた。
 駆け寄ったラプノーを情けない顔で見上げて、クレマンは窓を手で示した。
「逃げました。 あそこから鳥のようにふわっと」
「愚か者!」
 激しく怒鳴りつけると、ラプノーは窓に飛びつくようにして、まず下を眺めた。 そして、縁にロープが結びつけられて、風になびいているのを発見した。
 降りしきる雪のカーテンの合間から、おぼろげに見張り台の輪郭が見えた。 ラプノーは身を乗り出して、窓の見張りに大声で呼びかけた。
「おーい、ここを人が降りていったか?」
 風に千切られた返事が、かろうじて届いた。
「わかりませーん! 吹雪が激しすぎて」
 ラプノーは窓枠を拳で殴りつけた。
「くそっ、天がなぜ悪魔の味方をするんだ!」







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