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表紙


――ラミアンの怪物――

Chaptre 44

 二人の侍女は、恐怖に打たれてじわじわと後ずさりした。 オーレリー・バトンの名は、死んだと思われていた間もずっと、人々の心に悪魔の代名詞として刻み込まれていた。 その本人が、目の前にいるのだ。 しかも、生きて、はつらつとして。

 シモーヌと皆に思わせていた女の顔が、ゆっくりと回り、奥の壁際に張りついたコリンヌを見すえた。
 低い、押し被せるような声が尋ねた。
「お前かい? 腹話術でとんでもないことをしゃべっているのは?」
「い、いいえ!」
 コリンヌは、壁にめり込むほど体を縮めて、悲鳴に近い叫びを発した。
「私じゃありません! ふ、ふくわじゅつって、何ですか?」
 その叫びに、先ほどの声が重なって聞こえた。
「オーレリー …… 遂に年貢の納め時だよ。 お前も吊るされる。 仲間の男のように…… そして、鴉に目玉を突つかれるんだ」
 激しい鼻息と共に、シモーヌは廊下に通じるドアに突進した。 ようやく、声がその隙間から来ていることに気付いたのだ。

 足音が駆け寄ってくる気配に、メイヨーはいち早く走り出して、階段の陰に隠れた。 だから、金髪の頭が扉から覗いたとき、廊下は左右とも、まったく無人だった。
 低く舌打ちしてから、シモーヌは荒々しく振り向き、血走った目でジョゼットを睨んだ。
「何を震えているの? あんな馬鹿げたたわごとを、お前本気で信じているのかい?」
 シモーヌが一歩踏み出すと、ジョゼットは風に吹き飛ばされたようにコリンヌの元へ駆け寄り、助けを求めて抱きついた。
 シモーヌは、形のいい顎をそらして、つんとした表情を作った。
「愚かな子。 そんな失礼な子は、傍には置けないわ。 さっさと故郷へ帰りなさい!」

 妃らしい威厳を保って廊下に出た後、シモーヌはスカートをからげて、メイヨーが隠れた階段とは反対方向に小走りで移動した。
 もちろん、メイヨーは足を忍ばせて、その後を追った。


 シモーヌが向かったのは、同じ階の奥だった。 この城は、各塔を二階と四階で回廊を渡して繋いでいる。 その角を曲がるたびに振り返るが、メイヨーも素早く反応してアルコーヴや甲冑の後ろにもぐり、見つからずにすませた。
 すべるように廊下を移動したシモーヌは、森の乙女が半獣神パンにオルガンを弾いてきかせている構図の、巨大な緞帳に近寄った。 そして、周囲を素早く見回した後、緞帳のどっしりした裾をめくって、壁を押した。
 すると、分厚い石造りの壁が、あっけないほど簡単に開いた。






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