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表紙


――ラミアンの怪物――

Chaptre 43

 だが、まだシモーヌは、自分の運に自信を持っていた。 銀色のネットで包んだ金髪に軽く触れ、自身を励ますように一言一言ゆっくりと反論した。
「水晶の間は、前から亡霊が見えると評判の場所。 先代の奥方が化けて出たか、風の音を聞き間違えたのでしょう」
「その噂が、あなたの思う壺だった。 もしかすると、シモーヌ様ご自身が噂を流した張本人ではないですか?」
「バカなことをお言いでない」
 薄ら笑いを浮かべて、シモーヌは打ち消した。
「私はバルビエ男爵の保証状を持っているのですよ。 どこへ出しても恥ずかしくない教養と知性を備えた教師として、この城へ送られてきたのです。
 そんな私が、部下を使って姫を暗殺? 誰が信じるというの!」
 怒りの表情でスカートをひるがえすと、シモーヌはさっさと寝室を出ていこうとした。 ラプノーは、歯噛みをしてその後ろ姿を見送った。
 今夜の襲撃は、妃が命じたにちがいない。 心証は真っ黒だが、証拠がないのだ。 目撃証言があると言っても、下働きの話では、まともに取り上げてもらえそうになかった。
 同じように扉の陰でも、じりじりと怒りに苛〔さいな〕まれている男がいた。 このまま言い逃れを許すのか? そして、また悪事を企むのを黙って見過ごすのか!
 この女がオーレリー・バトンだとは限らない。 それでも一か八か、思い切ってやってみよう! とっさにメイヨーは心を決め、胸に手を当てて呼吸を整えた。

 顎を誇らしげに上げて、シモーヌは控えの間に足を踏み入れた。
 そのときだった。 うつむくコリンヌと、そわそわしたジョゼットしかいないはずの部屋に、低い呻き声が流れた。

「オーレリー ……」

 シモーヌの足が、ぴたりと止まった。 顔が赤らみ、ついで血の気が引いて青ざめた。

 不気味な声は、なおも続いた。

「オーレリー・バトン……うまく逃れたな。 呪いを他人に背負わせて。 哀れな本物のシモーヌに償わせて……」

 さすがのシモーヌも、この攻撃は予想していなかった。 動揺を隠し切れずにいるうちに、コリンヌよりもジョゼットのほうが激しく周囲を見渡し、どこから聞こえるかわからない無機質な声に反応した。
 彼女はサンディジェに近いヴィトリーの生まれで、以前にオーレリーとティモテの曲芸を直〔じか〕に見たことがあった。
 新たな疑いの目で、しげしげと女主人の顔を見たジョゼットは、やがてポカンと口を開けた。 みるみる体中が、嵐の森のように揺れはじめた。
 弱々しく右腕を上げるなり、ジョゼットはシモーヌを指差した。 わなわなと痙攣する唇から、叫びが絞り出された。

「そうよ……そう……! オーレリー・バトンよ! 芸人の時はこってりお化粧をしていたけど、取ったらきっと、こんな顔よ!」






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