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表紙


――ラミアンの怪物――

Chaptre 41

 やがて兄妹は、盗みだけでは飽き足らなくなった。 ランスの近郊では次第に悪事が知られるようになったので、マルヌ川を南へ下がり、サンディジェでやもめの郷士に取り入って、うまく後妻になることに成功した。
 三ヵ月後、郷士は馬から落ち、首の骨を折って死んだ。 若い未亡人は、泣き腫らした赤い目で近所の同情を買った後、一週間もしないうちに姿を消した。 家屋敷と家財道具はすべて売り払われていた。

 後は、その繰り返しにすぎない。 トロワ、モンバール、ディジョンで、似た悲劇が連続して起き、のんびりした田舎の人々も、これは変だと気付き始めた。


 夏の昼下がり、ボーメの広場で若い二人連れが馬から降り立った。 地味だが立派な服を身にまとった二人は、男爵の父を暗殺されて逃げてきたと、旅籠の主人に語ったという。
 その主人は気のきく男で、噂話に詳しかった。 貴族と名乗っているのにお供のいない二人を不審に思い、留守の間に荷物をこっそり探って、見つけ出した。 様々な紋章のついたハンカチやスカーフ、指輪などを。
 変装するために持ち歩いているのだろうと、主人にはすぐわかった。 有名な『呪い人形』かどうかまでは確信がなかったが、詐欺師なのは確かだ。 さっそく主人は近所の男たちを呼び集め、棍棒や鎌、鉈〔なた〕などを握り、二人の帰りを待ち伏せした。

 二人は初め、何も気付かずに宿屋へ戻ろうとした。 だが、入口の前で男のほうが、確かにつないでおいた馬が消えているのを見つけた。
 たちまち二人は、左右に分かれて走り出した。 どちらを追おうかと男たちが一瞬迷っているうちに、彼らは広場を駆け抜けて、姿を消してしまった。

 最後に彼らが発見されたのは、ヴィッテルに程近いベアールの森の中だった。 山賊に襲われた後、獣に食い散らかされたらしく、ほとんど骨だけになっていたというが、どっしりした豪華な服装から、ボーメを逃げた詐欺師たちだと認められた。
 そして、傍に捨てられた荷物の中に、毒薬や手かせ足かせ、ロープなどに混じって、ポスターが入っていた。 『バトン兄妹――オーレリー&ティモテの、華麗な曲芸!』と、そこには記してあった。


 こうして、フランス東部を騒がせた極悪兄妹は、追われて森に逃げ込んで滅びた、はずだった。
 だが、それさえ見せかけだったとすれば。
 二人が森で、ちょうどエヴェルネの城に来ようとしていた本物のシモーヌ一行と出会い、これ幸いと身代わりにしたとすれば……!

 メイヨーは、杉の扉板に額をつけて、目を閉じた。 体中が、悪寒でかすかに震えていた。






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