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――ラミアンの怪物――

Chaptre 39

 妃を連れてきた侍女が扉をコツコツと叩くと、間もなく中から返事があった。
「どなた?」
 コリンヌの声だ。 ドア越しなので、小さく篭もって聞こえた。
「お妃様です。 急に雪が降って冷えてきたので、姫様にご不自由はないかと心配なさって」
 少し経って扉が開き、二人の訪問者を中へ招じ入れた。

 ゆっくりと閉じられた扉に、メイヨーは素早く張り付いた。 しっかりした扉だが、作られてから四十年以上経過しているために板が乾燥して、戸口との間に細くひずみが出ていて、中の物音がよく聞こえた。
 コリンヌが、張りのない声で話していた。
「何も変わったことはございません。 ブランシュ様はうとうとされておいでです。 ずっとそんなご様子で」
「寒くないかしら。 ほら、ケープを持ってきたのよ。 どうか着せてあげてね」
「ありがたいことで。 姫様も目が覚めたらお喜びでしょう」
「待って」
 不意にシモーヌ妃の気が変わった。
「私が着せてあげるわ。 いいのよ、ついてこなくて。 ここで二人で世間話でもしていらっしゃい」
「でも、私は姫様から離れるわけには……」
 コリンヌの抗議に、シモーヌの声が押し被さった。
「何ですって? 私が信用できないの?」

 相当気持ちが追いつめられているな、と、メイヨーは聞き耳を立てながら思った。 いくら待ってもナダールが戻ってこず、姫が死んだという知らせもないので、さすがの悪女も焦っているのだろう。
 ラプノーの命令で死体は片づけられているだろうが、肝心の姫は? 今度こそ他所へ避難していればいいが、と、メイヨーは強く拳を握りしめた。

 結局、コリンヌは引き下がったらしい。 小さく中の扉がきしむ音がした。
 メイヨーは唾を飲み下し、その後に続く音をひたすら待った。

 少し続いた静けさの後、やがて最初に響いてきたのは、驚きの小さな叫び声だった。








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