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――ラミアンの怪物――

Chaptre 38

 降りしきる雪の中を、メイヨーは走りに走った。 門番たちは皆、特徴あるラプノーの指輪を見知っているらしく、それを見せてメイヨーが命令を伝えると、すぐに門に飛びつき、次々と閉じていった。

 広い城内を駆け回り、小さな通用口まで確かめた後、メイヨーは疲れた足に鞭打って再び四階まで登った。
 さすがにもう急ぐことはできなかった。 壁を伝いながら、弱った太腿の筋肉でどうにか足を引っ張り上げ、ようやく四階の廊下にたどり着き、壁にもたれて少し休んだ。

 間もなく、階段の下に人の気配がして、淡い火が近づいてきた。 メイヨーが首を向けると、ドレスの上に短い上着を重ねた女性が二人、段を登ってくるところだった。
 壁に張り付くようにして立っているメイヨーを見て、二人はぎょっとしたように立ち止まった。
 雪雲のせいで、城内は夕暮れのように薄暗い。 手燭を持って先導してきた侍女は、すぐ傍に来るまでメイヨーに気付かなかったらしかった。
 内心の怒りを押し隠して、メイヨーは深く頭を垂れた。 侍女ジョゼットの後ろから、美しい金髪の頭が覗いた。
「おまえは誰? そんな乱れた服装で何をしているの?」
 いかにも上品な口調だ。 さっき正体を見極めたメイヨーでさえ、うっかりするとつられて丁寧になってしまいそうだった。
 視線を床に置いたまま、メイヨーは一本調子に答えた。
「新入りの下働きです。 喧嘩に巻きこまれてしまいまして、逃げていたらこんなところまで」
「すぐ下へ行って着替えていらっしゃい。 汚れていて見苦しいわ」
「はい」
 メイヨーは素直に階段を下りるふりをしたが、曲がったところで止まり、上の様子を窺った。
 すぐに衣擦れの音が遠ざかっていった。 二人はおそらく、姫の寝室へ向かったものと思われた。
 事件が起きてから既に二時間あまりは経つだろう。 忙しいミシェル・ラプノーがまだ姫の寝室にいるかどうか、はなはだ心もとなかった。
 いらいらして、メイヨーはつるっと顔を手のひらで拭き、自分を励ました。
――もう一ふんばりだ。 最後まで守り抜かなきゃ意味がない。 なにか武器になるものはないか。 なければ素手でも――
 さっき短剣を投げ捨てたことを後悔しながら、メイヨーは足音を立てずに階段を上がり、廊下をすべるように進んでいった。







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