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――ラミアンの怪物――

Chaptre 37

 ラプノーとメイヨーは、廊下の只中で鉢合わせした。
 若者のただならぬ姿に、ラプノーは眦〔まなじり〕を吊り上げて、ぎらりと剣を抜き放った。
「おまえは! 中庭にいた新米だな! やはり曲者か!」
「いえ!」
 急いで短剣を投げ捨て、メイヨーはしゃがれた声で叫んだ。
「姫様が襲われたのです!」
「なんだと!」
 ラプノーの秀でた額に、みるみる血管が盛り上がった。 怒りの形相すさまじく、抜いた刀をかざしながら走り出すラプノーを、メイヨーは必死に追った。
「姫様はご無事です! わたしが防いでいる間に、姫ご自身が槍で悪者を突いて」
 速歩を緩めずに、ラプノーは早口で尋ねた。
「悪漢を仕留めたか?」
「はい! 胸を深く貫かれました」
 ラプノーの眼が輝いた。
「でかした! そうか、遂に本懐を……」
 傍にメイヨーがいるのを思い出して、ラプノーは言葉尻を消し、更に足を急がせた。


 まだ昼前だが、不意にたれこめた雪雲のせいで、控えの間は薄暗く、足元がよく見えないほどだった。
 剛毅なラプノーは、たまたま通り道にあった小さなスツールを容赦なく蹴りとばし、疾風のような勢いで姫の寝室に躍りこんだ。

 中には、血の匂いが満ちていた。
 ブランシュ姫が熊に襲われた、あの忌まわしい夜のように。
 メイヨーも続けて入ろうとしたが、ラプノーにぴしりと止められた。
「ここはわたしに任せろ。 おまえには他にやってほしいことがある」
「はい」
「城門をすべて閉じさせろ。 誰が命じても開くなと言え。 わたし、ミシェル・ラプノーの厳命だとな」
「はい!」
 また走り出そうとするメイヨーに、ラブノーが思いついて指輪を抜いて渡した。
「おまえの言葉だけでは信じてもらえないかもしれんな。 これを持っていけ。 見せればわかってもらえるだろう」
 汚れた手にぎゅっと指輪を握って、メイヨーは今度こそ必死で部屋を駆け抜けた。







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