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表紙


――ラミアンの怪物――

Chaptre 34

 覆面姿のその胸には、腕の長さぐらいの短い槍が、深々と突き立っていた。
 槍は、初め痙攣のように大きく揺れたが、次第に動きが弱くなった。

 荒い息のまま、メイヨーは寝台から飛び降り、膝をついて、男の覆面を剥ぎ取った。
 ナダールは、虚ろな目を開けていた。 傷は致命傷で、もう長くは持たないのがすぐわかった。
 肩を掴むと、メイヨーは鋭く尋ねた。
「お前は、いや、お前達は、いったい誰なんだ!」
 ナダールの薄い唇に、あざけるような笑いが浮かんだ。
「ジャン・ルイ・ナダールだ。 知らないなら、覚えておけ」
「それがお前の本名か? 違うだろう! お前は護衛官のナダールじゃない。 同じように、あの女もシモーヌ様じゃない!」
「では、地獄の使いとでも思うがいい」
「気取るな!」
 憤激して、メイヨーの声が上ずった。
「お前たちは、育ちの悪いろくでなしだ! 汚い言葉で内緒話をしているのを聞いたぞ! もう命は長くないんだ。 本当のことを告白して行け。 嘘をついたままだと本物の地獄に落ちるぞ!」
 ナダールは顔を歪め、ヒヒッと苦しげな笑いを漏らした。 すると、美しい面立ちに亀裂が入って、突如気品を失い、悪魔の化身のように見えた。
「バカ野郎、俺がてめえ等の地獄を怖がると思うのか?
 俺たちはキリストなんぞ信じねえ。 神罰なんかくそくらえだ……」
 声が急激にかすれ、途絶えた。
 首ががっくりとうなだれた。


 ナダールが息を引き取ったことを知り、メイヨーは素早く彼の体を探った。
 内懐から薄刃の短剣が出てきた。 小さな布袋に入った枯草のようなものも。 更に探すと、ウェストに金貨と銅貨を何十枚も入れた胴巻きを巻いていた。
 メイヨーが中をあらためていると、頭の上からかすれた声がした。
「戦利品よ。 あなたのもの」
 メイヨーは、片膝をついたまま急いで振り返った。
 寝台の際に、姫が身を乗り出していた。 苦しげに首を押えている。 メイヨーはぎょっとなって、胴巻きのことなど忘れてしまい、姫に体を寄せて手を撫でさすった。
「どうなさいました! こいつに首を締められたんですか?」
「確かに殺そうとしたわ。 でも首に手をかけたんじゃない。 いきなり枕を被せて、息を止めようとしたの」
 姫は喉から唇に指を持っていって空咳にむせんだ。
「物凄い力だった……」
 たまらなくなって、メイヨーはいたわりの気持ちをこめて、細い体をぐっと抱き寄せてしまった。






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