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表紙


――ラミアンの怪物――

Chaptre 33

 数秒後、控え室に通じるドアが、そろそろと開いた。 メイヨーは、暗い空間で息を潜め、耳に全神経を集中して、すべるように近寄ってくる侵入者の気配を聞き分けようとした。
 ぎょっとなるほど不意に、寝台の下から見える細長い空間へ靴が入って来た。 爪先の巻き上がった茶色のブーツだ。

 その靴の持ち主は、時間を無駄にしなかった。 まったく一言も発することなく、いきなり寝台にのしかかろうとした。
 ベッドが大きく揺れた。 ほぼ同時に、メイヨーは靴の片方に狙いを定めて、全力で掴み、思い切り引っ張った。

 相手はバランスを失い、ウッという低い呻きと共に腰から落ちて背後の壁にぶつかった。 メイヨーは二度体をねじって寝台の下から這い出すと、すばやく腰の短剣を抜いた。
 それを見て、相手も長い足をバネのように動かし、ぴょんと立ち上がった。 豹のように素早く、動作がやわらかい。 顔一面を黒い布で覆って目だけ出しているが、高い身長といい、豪華な服装といい、先ほどメイヨーが見かけたナダール警護官に間違いなかった。

 覆面は、布の下からメイヨーを睨みながら、ゆっくりと長剣を抜いた。 その動作は、半ばで不意に早くなり、左足を踏み込むと同時に、稲妻のように突いてきた。
 とっさに、メイヨーは寝台の端へ飛び上がった。 串刺し寸前で鮮やかによけられて、覆面は急いで向きを変え、低く罵り言葉を発しながら、また剣を繰り出した。
「下郎め!」
「下司〔げす〕はお前だ!」
 鋭く言い返すと、メイヨーは短剣を持ち替え、手首を一閃させた。
 指から放たれた短剣は、空気を切り裂いて飛び、覆面の手に命中した。

 剣の落ちる鈍い音が響いた。 だが、覆面はめげず、短剣を手の甲から引き抜いてすぐ、剣を左手で拾いなおし、武器を失ったメイヨーに襲いかかった。 メイヨーはまた軽やかに身をよけたが、天蓋の端に肩がからまって、一瞬動作が遅くなった。
 すかさず、覆面が切りつけた。 利き腕ではないので狙いを外したものの、メイヨーの肩が切れて、鮮血がシーツに赤い弧を描いた。

「とどめだ!」
 覆面が濁った声で叫び、メイヨーの胸を突き刺そうとしたそのとき、天蓋が大きくはためいた。
 次の瞬間、覆面は雷に打たれたようになった。 突如動きが止まり、胸を掴んで体を丸め、そのままぐったりと床に坐りこんだ。
 まるで、糸の切れた操り人形のように。






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