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表紙


――ラミアンの怪物――

Chaptre 31

 コリンヌの表情が、ふっときつくなった。
「あんたに姫様の護衛を? 護衛ならラプノー様に頼むわよ」
「呼びに行く間が危ないんです!」
 メイヨーは懸命に訴えた。
「ブランシュ様の部屋で、俺一人隠れられる場所はありませんか? この命に替えてお守りしますから!」
 少し間があいた。 コリンヌの目が落ち着きなく動いた。
 それから、彼女は決断した。
「ええと、あんたは二晩姫様のいい話し相手になったようね。 だから、信じましょう。 衣装箱の中か、ベッドの下に這いこむといいわ。 息を潜めていれば、誰にもわからないでしょう」
「ありがとう!」
 勇んでメイヨーが、奥へ通じる扉に手をかけたとき、表のドアがノックされた。
 のんびりした明るい声が聞こえた。
「コリンヌ、いる?」
 その声を聞き分けたとたん、コリンヌの白い顔にパッと紅が散った。 急に落ち着きを失って自分のほうをちらちら見る様子に、恋人が来たなと悟ったメイヨーは、用心のため口に指を一本当てて、警告しておいた。
 俺のことはしゃべらないで、というジェスチャーに、コリンヌは大きくうなずいた。  向こうが信じてくれたように、こっちも信じるしかない。 メイヨーは扉をあけて体をすべりこませ、コリンヌは飛ぶように表のドアへ駆け寄った。

 わずかに隙間を作った扉に耳を寄せて聞いていると、小さなキスの音に次いで、男の声が響いてきた。
「会いたかったよ。 君はずっとここに詰めっきりで、ろくに話もできないんだもの」
 コリンヌが、別人のように甘く答えた。
「仕方ないのよ。 わかって。 ガランスが消えて、姫様のお世話ができるのは私だけになったんだから」
「それでも少しぐらいは時間をくれるだろう? 今さっき、お妃さまのお部屋の窓を磨いていたら、ナダール様が来なさって、部屋をきれいに整えてくれた礼だと言って銀貨を下さったんだ。 そして、掃除はもういいから午後はのんびりしろとまで言ってくれた。 厳しい見かけによらず、いい人だよ」
 コリンヌはためらった。
「でも私……」
「いいじゃないか。 ほんの少しだよ。 もうじき十一月になって、そろそろ雪が降り出す。 こんなに晴れて穏やかな日は、長く続かないんだよ」
「……そうね」
「二人で庭を歩こう。 秋の名残の薔薇を見よう」
「ええ」
 すっかりうっとりしたコリンヌは、男と共にドアを出ていった。 しかし、去り際にちゃんと鍵をかけていくのは忘れなかった。
 カチャッという鈍い金属音を、メイヨーは確かに耳にした。






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