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表紙


――ラミアンの怪物――

Chaptre 27

 犯人像を打ち明けあったところで、ふと緊張がほぐれた。
 姫が、ためらいがちに尋ねた。
「城に来る前は、何をしていたの?」
 メイヨーは、あまりはっきり答えなかった。
「いろいろです。 大工の真似事をしたり、猟犬の訓練をしたことも」
「生まれは?」
「わからないんです」
 声が一段と低くなった。
「育ての親が言うには、森を一人で歩いていたそうで。 たぶん捨て子だったんでしょう」
 土地と封建領主に縛られた農奴制は、すでに崩れかけていた。 しかし、作物の出来が天候に左右されるのは相変わらずで、豊作なら子供を増やせるが、不作なら、養いきれなくなる。 森や野原に置き去りにされる子供が後を絶たない時代だった。

 小さく息をついて、ブランシュ姫は本題に戻った。
「ともかく、誰かが熊を窓の外まで連れてきて、この部屋を襲わせた。 そういうことね」
「はい」
「旅芸人たちは逃げてしまったわ。 なのに、いったい誰が熊を操れるの?」
「わかりません。 でも確かに、熊をかくまっていた人間がいるはずです。 そいつは、この広いお城のどこかに熊を隠し、餌と水を与え、面倒を見ていたんです」
 メイヨーの声に、静かな怒りが混じった。
「下で、千切れた口輪を見つけました。 熊が噛み切ったのではなく、刃物で裂かれていました」
「人間が外したのね……。 中庭には礼拝堂と裏口しかない。 人気〔ひとけ〕が少ないことを知っていて、熊を連れ出したなら、城内に詳しいからこそできることだわ」
「確かに」
 ほぼ真っ暗闇でも、目が慣れると輪郭がわかってくる。 メイヨーは、天蓋の下で片肘をついて頭を起こしているしなやかな姿を、ぼんやりと見てとることができた。
「たぶんナダールが首謀者よ。 義母の傍仕えで、警護の役割もしている男」
「サン・ドネル様のお使いから噂を聞きました。 相当な色男だとか」
「私は嫌い、あんな顔」
 日頃の静かな態度とは違い、姫は鋭く吐き捨てた。
 微笑したくなるのを押えて、メイヨーは優しく提案した。
「それとなく見張っていましょうか、そのナダールという警護役を?」
「お願い。 でも、気配を悟られないようにしてね。 相手は容赦ない悪党だということを忘れないで」
 姫の声は、気遣いに溢れていた。 部下をただねぎらうには、熱心すぎるぐらいに。





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