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表紙


――ラミアンの怪物――

Chaptre 26

 メイヨーは、静かに寝台へ歩み寄った。 心臓が不規則に鳴って、こめかみに汗が浮いた。
「姫様」
 念のため、そっと囁きかけると、天蓋がわずかに揺れた。 メイヨーは闇の中を泳ぐように、その方角へ向かった。

 昨夜と同じく、ベッドの脇にひざまずこうとすると、手が出てきて止めた。
「その椅子におかけなさい」
「でも、わたしは下働きですから」
「いいえ、今は私を守り、情報を伝えてくれる人です。 さあ、坐って」
 毒を発見したことで信頼を得たのだと、メイヨーは悟った。 嬉しかったし、ほっと胸を撫で下ろした。
「どう? 私を殺そうとしている犯人の見当はついた?」
 答える前に、メイヨーは指を組み合わせて十字を切った。
「はい、うすうすは」
「そう……私もよ」
 次の言葉は、二人ともなかなか出てこなかった。

 やがて、メイヨーが思い切って言った。
「畏れ多いことですが、たぶんお妃様だと思います」
「ええ」
 いやにきっぱりと、ブランシュ姫は認めた。
「あの人は、別に私を嫌ってはいない。 ただ、邪魔になっただけなのよ。 サン・ドネル様に嫁ぐとき、相当な持参金を持っていくことになっているから」
「つまり、お城の財産を独り占めにしたいんですね。 だとすると、跡継ぎを産まなければ……」
 はっとして、メイヨーは言葉を切った。
 ブランシュが低く後を続けた。
「義母は、最近体の調子が悪いわ。 おめでたかもしれない」
「なるほど。 それで旅芸人を雇って」
 自分で話していて、メイヨーは違和感を持った。
「いや、危険すぎませんか? 雇った芸人たちに証拠を握られてしまうんですから。 彼らは計算高い。 お妃様が財産を自由に使えるようになったら、きっと現れて分け前を増やせと言うでしょう」
「そうね。 それにもう一つ不思議なのは、義母がどうやってあの芸人たちを呼び寄せたかなの。 彼女はここへ来て以来、遠出をしたことがないわ。 もう四年近くになるけれど」
「使者を送ったんでしょうか?」
「護衛のナダールは、いつも彼女の傍にいて、丸一日以上離れていたことはない筈よ。 他に義母と親しくしている部下はいないし」
「案外寂しいんですね、お妃様は」
 メイヨーが、いくらか皮肉っぽく呟いた。





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