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表紙


――ラミアンの怪物――

Chaptre 25

 使者たちを見送ってしばらくすると、雨空は灰色から黒へ変わり、周囲はすっかり夜の気配になった。
 肉がちょっぴり入ったシチューと豆、という食事を終えた後、メイヨーが食堂の賑わいにまぎれてこっそり出ていこうとしていると、馬屋頭のカピュランがいつの間にか横にいて、軽く上着を引いた。
「どこへ行く?」
「え? ちょっと用足しに」
「昨夜もそう言って出ていって、ずいぶん長く戻ってこなかったな。 何をこそこそしているんだ?」
 メイヨーは慌てず、肩をすくめて白い歯を見せた。
「男が夜に忍んでいくところって、どこですか? ほらほら、カピュランさんだって、若い頃には覚えがあるでしょう」
「まあな」
 カピュランもつられて渋い笑顔になった。
「あまり羽目を外すなよ。 なかなかの男前だから、誘いはあるだろうがな」
「まあ、いくらかは」
「馬屋には女を連れ込むなよ。 それに、真夜中までには帰ってきて、ちゃんと寝るんだ」
「わかりました!」
 素直そうにうなずいてみせて、メイヨーは使用人用の裏口へ向かった。

 一歩戸外に出ると、メイヨの動きは俊敏になった。 猫のように塀へ飛び上がり、窓枠をうまく使って上へ上へと登っていった。
 だが、姫の部屋へ通じる屋根から首を出したとたん、その動きはぴたっと止まった。 今夜は昨夜ほど運がない。 見張り番は真面目で頑丈なジャック・ポミエに交代していて、槍をがっちりと抱え、目を光らせながら柱に寄りかかっていた。
 メイヨーはすかさず、腰に下げた布袋から石を出した。 それから、見張りの目が逸れたときを狙い、屋根の反対側にできるだけ遠く投げた。
 ガンッという、思ったより大きな音が出た。 ポミエはすぐ反応した。 慌しく柱から体を起こして、広い屋根を横切っていった。
 その背後を、メイヨーは風のように走り抜けた。 そして、ポミエが裏庭を覗きこんでいる間に鎧戸を開き、あっという間に中へすべりこんだ。





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背景:May Fair Garden
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