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表紙


――ラミアンの怪物――

Chaptre 24

 翌日は、朝からひょうひょうと風が吹いて、ときどきあられ混じりの小雨が軒に当たり、パチパチと火花のような音を立てた。
 最後まで枝にしがみついていた枯れ葉が、汚れた雪のように舞い飛ぶ中、二人の使者が馬を飛ばして、城門に駆け込んできた。
 それは、ブランシュ姫の婚約者ギョーム・サン・ドネルの部下たちだった。 ギョームは、自分の病がようやく癒えたのに未来の花嫁が大怪我を負ったことを悲しみ、気づかいの手紙をよこしたのだ。
 城主のユステール伯爵がまだ娘の快復祈願のお篭もり中で、礼拝堂から出てこないため、代理でミシェル・ラプノーが手紙を受け取った。
「お心遣い、まことにかたじけない。 殿様にはわたしからご伝言をしかと報告しておきますので、どうぞご安心を」
「熊は、森へ逃げたそうですね?」
 まだ少しおっかなびっくり、使者の一人セヴランは、招き入れられた『青の間』の外の回廊を気にしながら尋ねた。
 手紙を巻き戻して紐で結ぶと、ミシェルは暗い顔でうなずいた。
「確かに城からは出たらしいのですが、まだ発見されていません。 村人を襲わなければいいがと案じております」
 使者二人は顔を見合わせ、とたんにそわそわし出した。
「では、任務も済んだことですし、我々は日の高いうちにお暇〔いとま〕を」
 明らかに逃げ腰だ。 ミシェルは内心苦笑したが、何くわぬ顔で真面目に相槌を打った。
「そうですね。 オレーム街道を抜けていけば、夕刻までにはメルレの町に着けるでしょう」

 使者たちは台所に寄って、ワインを皮袋に詰めてもらい、ついでにソーセージもせしめて、早い足取りで裏門に向かった。
 馬の体を拭き、水を飲ませていたメイヨーが、驚いて顔を上げた。
「あ、もうお帰りですか?」
「当たり前だ」
 そう言い捨てて、使者のデュボアはさっさと乗馬した。 しかし相棒のセヴランは手綱を受け取ると溜め息をついた。
「本当は少しのんびりしていきたいよ。 馬も休ませたいし。 でも、サン・ドネル様の衛兵になって五年経つが、でかい熊なんかと闘ったことはないからな。 おまけに、ずる賢くて隠れるのが上手な熊なんだろう?」
「確かにわたしも、夜は馬屋から出ないようにしています」
 さりげなく、メイヨーは話を合わせた。
「今のところ、熊は女の人しか襲っていませんがね。 このお城には侍女や小間使いがたくさんいるし、きれいなお姫様や若い奥方様もおいでだから、逃げたといっても気が抜けませんよ」
 馬上でじれていたデュボアが、ふっと笑った。
「若い奥方様ねえ。 確かにそうだ。 まだ二十二、三じゃないのか」
「殿様とは二十年以上も年が離れている」
「お付きのナダールは絵から抜け出たような美男子だしな」
 そして二人は、意味ありげに笑い声を立てた。






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