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――ラミアンの怪物――

Chaptre 18

 ミシェル・ラプノーは機敏に行動した。 部下たちを呼び集め、松明を灯して、近くに熊の痕跡がないか、手分けして調べさせた。

 やがて、城の東にある小門の周辺を調べていた部下たちが、大急ぎで戻ってきた。
「熊は木の門をよじ登って外へ逃げたようです! 外側に、重い物の落ちたような凹みがあり、雑草が森まで一列になぎ倒されていました!」
 裏庭に寄り集まって、固唾を飲んで捜索を見守っていた雇い人たちから、ほっとした溜め息があちこちで洩れた。

 ミシェルもいくらか胸を撫で下ろし、抜いていた剣を再び腰に収めた。 そして、部下のユルヴァンとピエリックを呼び、今夜一晩、門番と共に徹夜で東門を見張るよう命じた。 それはもちろん、熊が戻ってきたときの用心だった。
 騒ぎを聞きつけた弟のジャン・ピエールが、礼拝堂の扉を開けて、兄に駆け寄った。
「何が起きたんです? お篭もり中の殿様が心配しておられます」
 ミシェルは、すっかり日が落ちて濃灰色の影となった東の小門を指差した。
「あそこから熊が逃げた。 アゼマの森に入り込んだらしい」
ジャン・ピエールのきりりとした眉がしかめられた。
「森の向こうは集落だ。 人食い熊は味をしめると言う話です。 また人間を襲わないよう、村人に注意するべきでしょう」
「いい考えだ。 おまえ知らせに行ってくれ。 ボージェを連れていくといい」
「はい!」

 ジャン・ピエールが部下と共に馬屋へ急ぐのを少し目で追ってから、ミシェルは城主のいる礼拝堂へ報告に行こうとして向きを変えた。
 その視線に、石畳の上にかがんで何かを調べている男の姿が入った。 ミシェルは彼に近づいて、問いかけた。
「何をしている」
 若者は、パッと立ち上がった。 見慣れぬ顔だ。 ミシェルの声が鋭くなった。
「そもそも、おまえ何者だ!」
 若者が答える前に、馬屋頭のカピュランが飛んできて、恭〔うやうや〕しく説明した。
「今日来た新しい馬番です。 新米なんで、気がきかないのはお許しください」
 若者が急いで帽子を取ると、薄暗がりに明るい栗色の髪が光った。
「メイヨー、アンリ・メイヨーです。 お見知りおきを」
「メイヨーか。 覚えておこう」
 いくらか声を和らげて、ミシェルは応じた。
「さあ、ジャン・ピエール様たちがお出かけだ。 馬の支度、支度」
「はい」
 メイヨーがカピュランに引っぱられて去った後、ミシェルは彼が調べていた物を拾い上げた。
 それは、ずたずたになった熊の口輪だった。





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