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表紙


――ラミアンの怪物――

Chaptre 13

 ラプノーが、危なっかしい足取りで屋根の端まで行き、下を覗くと、衛兵たちが遺骸をマントにくるんで運んでいくのが見えた。
 バランスを崩さないようにそろそろと体を起こしてから、ラプノーは呟いた。
「哀れな娘だ。 確かに護衛として雇われてはいたが、大きな熊に立ち向かえとは誰も命令できぬ。 それなのに、責任を感じたか……」
 ぶるっと頭を振ると、ラプノーは気を取り直し、部下達に指令した。
「熊がどこへ逃げたか調べろ。 ここは切り立った外壁だから、いくら木登りのうまい熊でも、じかに裏庭へ下りるのは無理だ」
 屋根の三方は壁が取り囲んでいる。 東側は単なる目隠しの障壁だが、西は隣りの鐘楼へ行くための通路になっており、六本の太い柱で屋根と区切られていた。
 部下の一人が、その柱に黒い毛束がこびりついているのを発見した。 熊は階段を上り、廊下をさまよい、外気を求めてこの通路に出てきたものと思われた。

 部下たちを通路に待たせて、ラプノーは一人で窓をまたぎ、ブランシュ姫の寝室に戻った。
 医師はまだ、寝台の横に椅子を置いてぴたりと寄り添っていた。 その大きな背中と天蓋で、負傷した姫の姿を外部の目から守っているようだった。
 姫に直接事件の話を訊くのが筋だが、デュケ医師の手が追い払う仕草を見せたため、ラプノーは諦めて、壁際にしょんぼり座っているコリンヌに尋ねることにした。
「この部屋の扉がなかなか開かなかったので、ガランスと二人で力を合わせて押したんだな?」
「はい、そうです」
 こらえようとしても、大粒の涙が滝のように頬を伝った。
「ガランスが……かわいそうな子……斧を持って勇敢に飛び込みました」
「そのとき、熊は?」
「もういませんでした。 もう二分、せめて一分早く扉が開いていたら!」
「熊は案外臆病な動物だ。 姫の悲鳴を聞いて逆上して襲ったが、他にも人がいるのを知って、あわてて逃げたのだろう」
「でも、なぜわざわざこの部屋に押し込んできたんです? 窓をこんなに壊し、家具を倒してまで!」
「わからん」
 ラプノーは、そう答えるしかなかった。


 午後、客たちが遅い昼食にありついている頃、四頭の馬が裏門から目立たぬように入ってきて、若い騎士たちを降ろした。
 それは、ネッケル一座を追っていったジャン・ピエール・ラプノー達だった。 ジャン・ピエールは難しい顔をして、階段を一気に駆け上がり、二階の大広間でヴィラールと話していた兄を捕まえた。
「ただ今戻りました」
「おお、どうだった?」
 ジャン・ピエールは、ますます顔を曇らせ、兄のミシェルを部屋の隅に引っ張っていった。
「奴等、まんまと姿をくらましました」
「なんだと!」
 怒りの形相になった兄に、ジャン・ピエールは、もう一つの気がかりを話した。
「それと、村はずれで若い娘の死体が見つかったそうです。 三日前に行方不明になっていたんですが、熊に襲われたとしか思えないようで」





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