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表紙


――ラミアンの怪物――

Chaptre 10

 ガランスは、若さに似合わず地味で落ち着いた性格だった。 雰囲気にまどわされて、ありもしない異変を口にするとは思えない。 コリンヌは少し不安になって、閉めたばかりの鎧戸を少し開け、外を覗いた。
 この寝室では、窓の外側は三階の屋根になっている。 屋根は、緩い勾配を描いて北に下がり、出っ張りなしに壁へつながっていた。
 月が早々と沈んでしまったため、辺りは暗く、大広間ほどの面積がある屋根のすべてを見通すことはできなかった。 でも、隠れる場所のない緩やかな斜面に、動くものは何一つ見えない。 それは断言できた。
「唸り声って、どんな? 犬か、猫?」
「私は……熊かと」
 コリンヌは目を丸くして、それから笑い出した。
「あの抜け道から、手違いで熊が逃げ出して、城内をさまよっているとでも? まさか!」
「そうですよね。 だったらあの芸人達が大騒ぎで探すはず」
「そうよ、大事な奇術の元なんだから。 あなたもお姫様と同じで、少し飲みすぎたのよ。 早く寝ましょう」
 コリンヌは再び、きっちりと鎧戸を閉め切った。 その上に、ガランスが隙間風よけの緞帳を引き、二人は足音を立てないようにして姫の寝室を出た。
 間仕切りの扉を閉める前に、ガランスは腕を掲げて、もう一度、部屋の中を隅々まで照らしてみた。
 大きなキャノピー付きの寝台と、三脚の椅子、小机、それにサイドテーブルが、ゆらゆらと揺れる影を作った。
 確かに、それだけだった。


 翌朝の七時過ぎ、まだ薄暗い室内で、まずガランスが、ついでコリンヌが目を覚まし、起き上がった。
「静かね」
 コリンヌが、息を潜めて話しかけた。 ガランスもうなずいた。 奇妙なほど、城全体が沈黙に包まれていた。
「お客様たちは皆さんおやすみでしょう。 昨夜は遅くまで騒いでいらしたようですからね」
 普段の服に手を通しながら、ガランスがそう答えたとき、突然、バリバリッと大きな音がした。
 二人の侍女は、ぎょっとして顔を見合わせた。 その音は、隣りの部屋から聞こえてきたのだ。
 服の留め金をかけ合わせる間も惜しんで、ガランスが扉めがけて走った。 だが、たどり着く前に恐ろしいことが起こった。
 ガツッという、木の折れる音と共に、女の悲鳴が長く尾を引いて響き渡った。





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