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表紙


――ラミアンの怪物――

Chaptre 6

 だんだら服が遍歴の騎士を、緑マントがその他すべての役をやった。 敵役から馬、道端の木、そして、騎士の恋人役まで。 彼が役を代わる度に、幕の陰から小道具係の手が出て、すばやく紙の刀だの、木の枝だの、スカートだのを渡す。 緑マントは大急ぎで、剣を枝に持ち替え、馬の首を持って駆け回り、スカートを腰に巻きつけて、しなを作った。
 彼は、とてもうまく早変わりを果たしていた。 最初のうち、客たちは笑うよりも感心して、手を叩き、歓声を上げた。
 緑マントは器用なだけでなく、声色も上手だった。 馬の鳴きまね、可憐な乙女の裏声、木に当たる風の音まで、驚くほど真に迫っていて、お嬢さんかわいいね! という野次が飛ぶほどだった。
 だが、騎士役のだんだら服は意地悪く、どんどん芝居のテンポを上げていった。 それで、さすがの緑マントも追いつけなくなり、スカートを脱ぐ間もなく剣を振り回し、枝を取りにいこうとしてぶざまに転んだ。 観客は爆笑の渦になった。
 くすくす笑いながら、ブランシュは横のガランスに耳打ちした。
「道化芝居って、こんなに面白いものなのね。 何度でも見てみたいわ。 しばらく村にいてくれないかしら」
「確かによく練習してますね。 これなら本場ミラノの劇場に行っても満員にできるでしょう」
 お世辞ではなく、本当にそう思えた。 客たちは笑い崩れ、腿を打って喜んでいた。

 ようやく邪魔なスカートを蹴とばして自由になった緑マントは、騎士との最期の果し合いに臨んだ。
 銀紙を張った剣で派手に打ち合った後、騎士が繰り出した一撃が、緑マントの胸(実は腋の下)にグッと押し込まれ、寸劇は終わった。 緑マントはアルコーヴ横の柱に寄りかかり、断末魔の呻きを上げると、がくっと首をうなだれて、動かなくなった。
 盛大な拍手の中、深く一礼しただんだら服は、腕を三度、ゆらゆらとひらめかせた。 挨拶の一部かと思った観客は、次の瞬間金色の紙吹雪が花火のように吹き上がったので、思わず息を止めた。
「おお!」
「きれい!」
 どこにしまっていたのか、紙吹雪は男の手から次々と空中に放たれ、ちらちらと光りながら幕の前を埋め尽くし、やがて床に積み重なって、薄暗い足元を仄かに染めた。

 見事な演出効果だった。 人々が口をあけて見とれていると、だんだら服は軽く手をはたいて紙切れを払ってから、声を張り上げた。
「驚かれるのはまだ早い! これからが本当の見世物。 肝を抜かれ、ご尊顔の目が飛び出るほどの驚きが待っております!
 さあ、楽団の太鼓打ちさん、お願いします! 猛獣使いよ、準備はよいか!」
「はーい!」
 ドロドロドロと小太鼓を打ち鳴らす音が響く中、小道具係兼猛獣使いの長く尾を引く返事と共に、紺色の幕がはらりと落ちた。
 同時に、小さな悲鳴やざわめきが室内のあちこちから上がった。
「なんなの、あれは?」
「熊だ」
「熊? まあ、なんて大きくて、凶暴そうなの!」





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