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表紙


――ラミアンの怪物――

Chaptre 5

 外は、冬の前触れとなる北風が吹き荒れていた。 しかし、城の大広間は二箇所の暖炉が充分に暖め、三々五々戸口から入ってくる客たちの影を、陽気に躍らせていた。

 ほぼ全員が揃ったところで、領主のユステール伯爵エドゥアール・ダンドレが前に進み出た。 家令のヴィラールが杖で石の床を突き鳴らしたため、がやがやした話し声は次第に止み、長い毛皮のマントをひるがえして咳払いしたユステール伯に注目が集まった。
「今宵はわが娘、一粒種のブランシュ・マリー・オーロールの誕生を祝うため、遠路はるばる駆けつけてくださって、まことにありがたく、まためでたい。
 さあ、ブランシュ、こっちへ。 客人の方々の祝福を、謹んでお受けしなさい」
 はにかんだ様子で、衝立の後ろから姫が登場すると、あちこちから感嘆の声が上がった。 無理にお世辞を言わなくてもいい器量なので、歓声はごく自然に広がっていった。
「なんと愛らしい」
「すらりとしたお姿が、まるでポプラの若木のようだ」
 娘の評判がいいのに気をよくしたユステール伯は、早めに酒樽を開けさせ、料理と共にワインやビールを気前よく振舞った。
 消化をよくするため、楽団が耳障りのいい曲を奏で続け、人々は盛大に飲み食いした。 やがて、酔ってテーブルにもたれたり、うとうとし出す騎士も出て、少し宴会がだれてきた頃を見計らって、青と白の正装に身を包んだ侍従が、高い声を張り上げた。
「座興のお時間でございます。 はるかリールから来たと申す、ネッケル一座の道化者たち〜!」

 とたんに、大きなアルコーヴ(=壁の凹み)に吊り下げられた紺色の幕の後ろから、二人の道化が飛び出してきた。
 一人はいかにも道化らしく、赤白のだんだら模様のぴっちりした胴着に大きめのブリーチス(=ふくらんだ半ズボン)を穿き、二股に分かれた黒い帽子と、顔の上半分が隠れる緑のマスクをつけていた。
 もう一人は大きくてがっちりしており、ごわごわした生地の長衣をベルトで止め、その上を派手な緑のマントで覆っていた。 こちらも道化の慣例に従って、鉤型に曲がった大きな鼻つきの半マスクで顔を覆い、口元がわずかに見えるだけだった。 彼のマスクは黒かった。
 二人は膝を曲げて丁重にお辞儀をした。 だんだら服が、節をつけて口上を述べた。
「飛ぶ鳥を落とす勢いの領主様、麗しい姫君、そして、華やかに集われたお客様、これからご覧に入れまする道化芝居は、後に続く驚天動地の大見世物の、ほんの序章にすぎませぬ。 どうぞお気楽に、腹を抱えてお笑いくださいませ。 そして、お気に召しましたら、どうかお心づけをご過分に」
「よしよし」
「やれ!」
 景気付けの掛け声が飛び交う中、二人の道化は軽い身のこなしで、当時流行していた騎士の武者修行劇をパロディーにして演じ始めた。





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背景:May Fair Garden
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