表紙 北風と陽だまり 23
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 車は四駆かと思ったら、意外に堅実な紺色の国産のセダンだった。
 助手席に麻知を引き入れると、理人はそそくさとドアを閉めた。 そして、ぼそっと尋ねた。
「どっか行く?」
「どこへ?」
 我ながら間抜けな問い返しだと思ったが、まだ気持ちが混乱しているから仕方がない。
 理人は頭をごしごしと掻き、あきらめたようにステアリングから手を離した。
「その前に、説明してからにしよう」
 ダッシュボードからガムを出すと、一枚口に放り込み、麻知にも渡した。
「これメントール」
「うん……」
「オレさ、賭けたんだ」
「何に?」
「君の二面性に」
「え?」
 なんか聞き捨てならない言葉。 麻知がガサッと体を起こして抗議しようとしたとき、理人が続きを口にした。
「君って個人的立場だと、すごく気が強くて言いたい放題だけど、公的立場、つまり他の人がいると、相手に恥かかせないっていう気配りが凄い。
 だから、そこに賭けたんだ。 大勢いるところで言えば、もしかすると何とかなるかもって」

 ・・・・!

 言葉がなかった。 信じられない。 こんな大胆な戦略立てるヤツだったなんて。
 数秒後に、やっと声が出たが、なんだか力の入らない響きになってしまった。
「やることがブッ飛んでるよね。 ビストロでもそうだけど、ホテルでも。 いくら私を試すためだって、そこらへんの男の子に足かけて倒したり」
 プーッと噴き出す音が聞こえた。
「あれはリベンジ。 あのちょっと前に、あいつ通路で転んだんだ。 オレがさ、手貸して起こしてやったら、何て言われたと思う?」
 ああ…… 麻知にはだいたい察しがついた。
「誘拐だ〜! とかでしょ?」
「近いけど、もうちょいひどい。 人さらい〜、タスケテ〜! ってわめきやがんの」
「世の中も変だけど、保護者もおかしいよね。 そんなこと言わせてると、ほんとにさらわれたときに誰も助けてくれなくなる」
 ふたりはウンウンとうなずきあった。



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写真:ivory
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