表紙 北風と陽だまり 24
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 話しているうちに、少しずつ打ち解けてきた。 理人が最初から麻知に惹かれていたこともわかった。
「オレさ、シジミチョウ好きなんだよ。 ミニチュアサイズの蝶。 知ってる?」
「うん」
「で、花畑でマクロの接写してたらさ、君が来て」
 理人はなんとなくモジモジし出した。
「マーガレット切って抱きかかえたところにチョウが止まってたんだよ。 君と白い花とラベンダーカラーのチョウで、すごく絵になったからレンズ切り替えて、シャッター押そうとした瞬間に」
「動かれた」
「そう……」
 そうならそうと言やいいのに、なぜポスターとか何とかわけのわからんことを。 
 その気持ちがテレパシーで伝わったのか、理人は濁り気味の声で締めくくった。
「春夢荘の宣伝ポスターに売り込もうかと思ったのは、ホント」
 マーガレット抱いた自分の顔がどアップになっているところを想像して、麻知はあのとき怒鳴り返してよかったと正直思った。


 理人は車でホテルまで送ってくれた。 降りる前に、麻知は照れながら手を差し出して、握手を求めた。
「仲直り。 まず順序としてね」
 理人は黙ってその手を握り返した。 大きくて意外に分厚く、頼もしい手だった。
 つないだまま、麻知はそっと尋ねた。
「いきなり付き合うことになっちゃって、よく考えてみたら早トチリしたなって思ってない?」
 理人は意味深長な笑顔を浮かべた。
「思うわけねーだろ。 うっかり承知して、そっちが後悔するんじゃねーの。 オレって無愛想で」
「知ってる」
「意外に細かく気がついて」
「それも知ってる」
「口が悪いが言葉は足りない」
 足りないどころか見事に自己分析してる。 麻知は笑いたくなった。
「切れ者なんでしょ? 鈍感よりずっといいよ」
「じゃ、本格的に付き合い開始だな」
「そうだね」
 透明なマニキュアをしただけで飾りけのない麻知の手を手のひらに置いて眺めながら、理人は尋ねた。
「まっちゃんと呼ばれてるみたいだな? オレだけ麻知って呼んでいいか?」
「いいよ、理人……って、二十九の大人を呼び捨てってちょっと」
「まだ二十八だ。 お互い若作りだし」
「若作りって、意味が違〜う!」
 言い合いをしているうちに、ほのぼのとしてきた。 最初は大っ嫌いだと思ったのが信じられなかった。
 第一印象なんて、当てにならないこともあるんだな――麻知は早合点して言いたい放題だった自分をちょっと反省した。
 だから、車を降りる寸前に、すっと亀みたいに首を伸ばして、理人の頬っぺたにキスした。 そして超特急で逃げ出した。

 庭の中まで逃げ込んで振り返ると、理人がガラスに手を置いてこっちを見ていた。 なんとなく、捕まった猿のように見える。 麻知は笑顔になって、片手をあげて大きく振った。
 すると理人の口が左右に大きく開き、あけっぴろげに笑った。 やんちゃないたずらっ子のように。 そして、、顔の横で手を振り返した。 ちょっとぎこちないのが、可愛らしかった。

〔オワリ〕






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写真:ivory
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