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「おまえの声は本当にいい」
そう感嘆しながら、司教は両腕を高く天に向かって伸ばした。 いかにも南欧人らしい派手な仕草だった。
「歌を聴いて胸を打たれた。 本当の娘だったらよかったのにと思ったぐらいだ。 事実は、名付け親で叔父にすぎないのだが」
ああ……。 やっとリーゼは相手の立場がわかった。 そして、実の父親の名も。
それから小半時、二人は窓辺に腰かけて、話を交わした。 サルヴァトーレ枢機卿は、小さい頃から僧院に入るのが夢だったそうで、今の自分の境遇に満足していた。
「フェデリコ兄は、一番仲のいい家族だった。 兄が永遠にいなくなっても、マルギットの産んだ兄の血筋がこの世に残っているのは大いなる慰めだ」
枢機卿は優しくリーゼの頭に手を置き、祝福の言葉を唱えた。
「神の恵みと平安がありますように。 この見当外れの密告状を誰が書いたか、心当たりはあるかね?」
たぶん、ザビーネ・フォン・アイブリンガーだろう。 証拠はないが、そう感じた。
「そうではないかと思う人はいます」
「そうか。 用心しなさい。 わたしもできるだけのことはする。 力があるうちは、おまえを応援するよ。
そうだ、どういういきさつでリーゼ・シュライバーの後押しをしているか、そっと噂を流そう。 そうすれば、馬鹿な誤解はだんだん消えていくだろう」
リーゼの胸に、温かい感動が広がった。 これまで親戚と呼べる人は、母方の叔母グレーテだけだった。 だが、父方にも彼女を案じ、大事にしてくれる親族がいたのだ。
リーゼは衝動的に手を伸ばして、叔父の指をそっと握った。
「嬉しいです。 お目にかかれて、本当によかった。 これまでいろいろと助けてくださったこと、深くお礼を申しあげます」
枢機卿は微笑んで、リーゼの手を握り返し、ゆっくりと振った。
それからまた半時、リーゼはできるだけ多く、フェデリコの話を聞いた。 あまり熱心に問いかけるのを見て、枢機卿は首からロケットを引き出し、リーゼに渡した。
「形見にこれを持っていきなさい。 わたしは他にたくさん肖像画を持っているから」
それから、小さなボタンを押して、中を見せてくれた。 真面目な表情と情熱的な眼をした青年が、リーゼの瞳に熱く飛び込んできた。
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