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―95―
僧服の男は、やや痩せぎすの優雅な姿をしていた。 僧帽からはみ出て波打っている髪は既に白く変わっていたが、眉の下に明るく光る目は、リーゼそっくりの緑がかった灰色で、いきいきと光を受けて動いていた。
もう一歩退いて、リーゼは唾を飲み込んだ。 心の準備をまったくしていなかったため、頭が真っ白になった。
男は、なまりのあるドイツ語で苦心しながら話し出した。
「驚いたようだね。 マルギットはおまえにわたしのことを話さなかったのか?」
乾ききった唇をなめて、リーゼは辛うじてかすかに答えた。
「何も……何一つ」
「そうか」
目の前のすらりとした姿は、明らかに悲しげになった。
「わたしの名はダリオ・サルヴァトーレ。 枢機卿で、今は法王庁にお仕えしている」
そこで首を振って、苦笑いした。
「前はもっとすらすらとここの言葉をしゃべれたのだがな。 もう二十年以上経つか。 遠い昔になった」
「あなたは……」
母を愛人にしていたんですか? という問いを、リーゼは口に出しかねて、言葉を途切らせた。
サルヴァトーレ枢機卿は、再び両手の指を組み、夢見るような表情になった。
「君のお母さんは、本当に素敵な人だった。 爽やかな海風のような、あの笑い声が忘れられない」
密やかな溜め息が、声に混じった。
「あの夏、わたしは十九だった。 親たちに急用ができて、リヴォルノの別荘に来られず、初めて兄弟だけで海に行った。 誰に怒られる心配もない。 伸び伸びと好きなことができて、それは楽しい毎日だった。
そこへすぐ上の兄のフェデリコが、マルギットを連れてきた。 二人は愛し合っていて、それは幸せそうだった」
自分との恋を語るのかと思いきや、別の名前が出てきたので、リーゼは驚いて耳を澄ませた。
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