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―91―
翌日の火曜日は、珍しく丸一日休みだった。
リーゼは王立図書館に行って、まずハルテンベルク家の系図を調べた。
彼の家は裕福なだけでなく、なかなかの名門だった。 本人が言った通り、十八世紀から続く海軍一族で、先祖はバイエルン出身だ。
――お父様は一昨年の暮れに亡くなっている。 じゃ、今ではヴァルが当主で伯爵なんだ――
ページを繰る手が重くなった。 一人息子のヴァルは、いまやハルテンベルク家を背負って立つ存在なのだ。
――でも、やっぱり独りぼっち。 兄弟だけでなく姉妹もいないし、お母様は十年も前に世を去っているわ――
リーゼの視線は、急いで傍系をたどった。 ヴァルには親族が少なかった。 いとこは三人のうち二人まで女で、どちらも名門の金持ちに嫁いでいる。 ただ一人の男子は、分家の長としてバイエルンの政治家になっていた。
お家騒動の種はなさそうだった。 リーゼは席を立って重い本を書棚に返し、わくわくしながら新聞の棚へ移動した。
アイメルトの言葉通りだった。 去年の夏の一面は、リッサ海戦の勝利とハルテンブルク大尉の手柄話で埋めつくされていた。
胸を躍らせ、時にははらはらしつつ、リーゼはなめるように新聞を読み進んだ。 細かいゴシップ記事でも、ハルテンベルクと書いてあれば残らず目を通した。
しかし、謎の手がかりになるような文面は、どこにもなかった。
結局、ヴァルが正統な名門の嫡出児で、非の打ち所のない生活を送っていることしかわからなかった。 これでは三国一の婿さん候補と騒がれるわけだ。 リーゼはがっかりし、疲れた気分で図書館を後にした。
翌十一月六日の夜、早くもヴァルから手紙が届いた。
『僕の魂そのもののリーゼ
寝ても覚めても君が頭から離れない。 こんなに幸せでいいのかと思うほど心が満ち足りて、明るい気分だ。
軍の機密なので詳しくは書けないが、来月の半ばにはウィーンに戻れるはずだ。 会える日を指折り数えて待っている。 どうか体を大事にして。
時間がなくて走り書きでごめん。 僕と同じに君も幸福でありますように。
何より君を大切に思うヴァル』
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