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カップを一つずつ持って、居間の椅子にそれぞれ落ち着くとすぐ、ヴァルは声のトーンを下げて話し出した。
「イエリネクが、つまり父の使いのことだけど、彼が君にたいへん失礼な申し出をしたそうで、本当に申し訳ない」
リーゼの視線が揺れた。
「あの人の立場なら、仕方のないことだわ。 あなたは気にしないで」
「いや! 後で聞かされたとき、僕はあいつを殴った。 殺してやりたいと思ったほどだ」
激しくヴァルの唇が震えた。
「僕の大事な人を侮辱するのは、僕を侮辱するのと同じことだ」
僕の大事な人。
今、ヴァルは確かにそう言った。
突如、リーゼの視界がぼやけた。 大量の涙がいちどに吹き出してきて、そのままでは隠せないと悟った。
もうこらえ切れなかった。 泣きむせぶ寸前に、リーゼは大急ぎで立ち上がり、向かい合ったヴァルの胸に飛び込んだ。 背後で音を立てて、椅子が床に倒れた。
とっさに受け止めたヴァルの口から、かすかな呻きが漏れた。
「ああ、神様、お許しください……」
それから、熱病のような息がリーゼの頬にかかり、唇を覆った。
ヴァルを燃やす炎は、またたく間にリーゼにも伝染した。 二人は飢えたようにキスを繰り返しながら椅子からずり落ち、分厚い絨毯に転がった。
「かわいい人」
激しい口づけがわずかに途絶えるごとに、ヴァルはもうろうとした様子で囁いていた。
「会いたかった、会いたかった! 君だけが僕の輝きだった。 大切な僕の港、安心して帰れる君の元に、いつも戻りたくてたまらなかった」
リーゼは目を閉じ、できるだけ両腕に力を込めて抱き返した。 喉が焼かれるように熱く、まともに息ができないほど胸が迫った。
やがてヴァルは膝をついて起きあがり、軽々とリーゼを持ち上げた。 そして、隣の寝室へすべるように運んでいった。
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