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馬車をいったんコッホ広場のレストランに止め、軽く昼食を取った。 アイメルトは焼き肉とビールをおいしそうに平らげたが、リーゼはやはり食欲がなく、ワインで少しパンを流しこんだだけだった。
そうこうしているうちに約束の二時近くなったので、リーゼは馬車に乗って、侯爵夫人の屋敷があるベルンシュタイン通りへ向かった。 招かれていないアイメルトとは、レストランの前で別れた。
砂岩で作られた瀟洒〔しょうしゃ〕な玄関には、いかめしい顔の従僕が待ち構えていて、うやうやしくリーゼからコートを脱がせて受け取った。
扇と手提げを持ち、ベルベットのショールを肩に羽織って、リーゼは奥のサロンに入っていった。 中は二つの暖炉に赤々と薪が燃えて暖かく、華やかに着飾った男女があちこちで社交的会話を交わしていた。
ミサで歌ったときの豪華な衣装のままだったので、リーゼは並み居る婦人たちの中で際立って見えた。 そんな彼女をすぐ目に留めて、女主人のフォン・クラッケン侯爵夫人アウグスタが近づいてきて手を差し伸べた。
「お忙しい中をよく来てくださったわ。 さあさあこちらへ」
部屋の中には、香料と紅茶、そしてコーヒーの匂いが入り混じっていた。 端へ行くと、葉巻の煙もただよってくる。 リーゼはすぐに顔見知りのファン達に囲まれ、賛辞を浴びた。
「『ランメルモールのルチア』、素晴らしかったですわ。 私パリで拝見しましたのよ」
「パリのオペラ座は素敵ですわね。 もうじきこちらでも王立歌劇場が出来上がるそうですから、ぜひこけら落しはシュライバーさんに」
回りに笑顔で答えているとき、リーゼの耳に思わぬ声が届いた。
はっと息を引いて、リーゼは背後を振り向いた。 ごくかすかだが、あの声は……
しかし、見えたのは銀行家マテウスの丸い肩と、ディートリヒ秘書官の物憂げな顔だけだった。
二人が語り合いながら歩いていった後に、アウグスタ夫人が思案顔で移動してきた。 そして、大声で戦争談義をしていた中年男性二人に語りかけた。
「軍用ライフルだの前部装填式大砲だのって、私たちにはちんぷんかんぷんですわ。 殿方のクラブでじっくりお話しください。 ここでは音楽、芸術、そして恋のお話をね」
「いや、しかし奥方」
リーゼの知らない白髭の男が、むきになって言った。
「わがオーストリア軍の士気は決してプロシアに劣るもんじゃない。 ただ、指揮官と、それに装備が悪い。 旧式すぎるんですよ、兵器が」
「いや、軍備の差だけじゃない。 ケーニヒグレーツでは戦略でも負けていた。 モルトケは敵ながらあっぱれだ。 電線を戦場まで引き回して、あらゆる情報をいち早く後方へ送っていたそうだ」
「しかしだね、同じように遅れた軍備でありながら、わが海軍は見事な勝利を収めたじゃないか。 イタリアの戦艦を三隻も沈めたんだから」
「確かに。 だが相手が違う。 精鋭部隊のプロシアに比べ、腰の引けてるペルサノ大将のイタリア海軍じゃ」
「そう、その手柄話なら聞きたいと思ったんですよ。 勝ち戦ですもの」
侯爵夫人が溜め息をついた。
「でも、せっかくお招きしたのに、ハルテンベルク大尉は急に用事を思い出したとかで、入口で回れ右なさって」
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