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―76―
後には、石のように冷たく凍えた娘が残された。 一人ではなく、庭の中と外に、二人……。
ザビーネ・フォン・アイブリンガーは、しばらく動かずに坐ったままだった。
それから、いきなり飛び上がって、固く拳を握り合わせた。 鋭い呼吸音の混じった声が空気を裂いた。
「諦めないわ! 私に恥をかかせたままで済むと思ったら、大間違いよ! 誰があなたの本命か探り出してやる。 そして、叩きつぶしてやる!」
上等なサテンのコートがひるがえった。 怒りにまかせて子馬のように荒い足音を立て、海軍大将の令嬢は、つれない男と同じ道を辿って、リーゼの視界から遠ざかっていった。
男と女の姿が完全に消えた後、リーゼは目を閉じて、ぐらりと糸杉の幹によりかかり、冷えた額を押し当てた。
――ヴァル……ヴァルター・イェーガー …… その後に、フォン・ハルテンブルクと続くのね――
緑の中に佇〔たたず〕む立派な別荘が、脳裏に浮かび上がった。 懐かしいハルテンブルク家の別荘。 幸せだった夏の隠れ家。 あれは友達のものじゃない。 ヴァル自身の別荘だった……。
探すなと言われたから、探さなかった。 だが答えは、すぐ目の前にあったのだ。
瞼を閉じていると、さっき目撃した彼の姿が、圧倒的な力で蘇ってきた。
凛々しくなっていた。 髪型が変わり、鼻下に髭まで生やして、まるで別人のようだ。 しかし、一段と美しい。 体も一回り大きくなっていた。
昔の彼をポプラの木に例えるなら、今の彼は菩提樹だった。
激しい動揺が少し収まると、疑問が襲ってきた。 あの匿名の手紙。 送り主はなぜここを、そしてこの時間を指名したのだろう。 幻の父ではなく、謎の恋人が現れる、この時間帯を。
疑問は解けなかった。 解けるわけがなかった。 そのまま立っているうちに全身が押さえがたく震えてきたので、リーゼは木陰から出て、おぼつかない足で馬車の方へ引き返した。
よろめきながら歩いてくるリーゼを見つけ、アイメルトは馬車を飛び降りて迎えに来た。
「どうしたの? 真っ青だよ。 まるで死人を見たようだ」
「見たのかもしれないわ」
リーゼは辛うじて呟いた。
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