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―71―
急いでアイメルトがドアを開くと、おかかえ御者のビットナーが体を斜めに倒して、申し訳なさそうに早口で言った。
「女が角から飛び出してきましてね、馬と衝突するところでしたよ」
リーゼもアイメルトの後ろから外を覗いた。 すると、黒っぽい服装の女性が街灯の横に倒れているのが目に飛び込んできた。
「まあ、大変」
そう呟くと、リーゼは女に近い反対側の扉から素早く降りて、へたりこんだ彼女を助け起こした。
「大丈夫ですか? 怪我は?」
倒れたときに落ちかかってきた帽子を、女は懸命に顔から上に押し上げた。
青い眼が、リーゼの緑がかった灰色の瞳を捉えた。 とたんに女は襟元に手を置き、大きく胸を上下させた。
「まあ、リーゼ!」
この声は……! 見た目よりもまず音に、リーゼは素早く反応した。 懐かしい、懐かしい声だった。
「エリー! エルミーラ・エクスナー!」
たちまち二人は、膝をついたまま固く抱き合った。
「今はエルミーラ・ドレーゼケよ」
「そうね、そうだったわ。 本当に久しぶり」
「会いたかった! アン・デア・ウィーン劇場の楽屋口まで行ったことがあったのよ」
「えっ?」
リーゼは驚いて目を見張った。 駆け落ちした親友エルミーラは、だいぶ大人っぽくなった顔に微笑を浮かべた。 すると、昔と同じに小さな笑窪が寄った。
「でももうあなたは辞めた後だった。 あの劇場、バカよね。 リーゼがいなくなってから、すぐ潰れちゃったじゃない」
確かに、アン・デア・ウィーンはあの後三年足らずで倒産し、現在は細々と復興中だった。
嬉しさがこみ上げて、リーゼは再び親友に腕を回した。
「手紙をくれればよかったのに。 私も会いたかった。 よく思い出してたのよ」
「時間がなくてね。 次々と子供が生まれたものだから」
小声で言いながらもそもそと立ち上がる途中で、エルミーラは思い出した。
「そうだ! 今急いでるの。 母が倒れたって知らせが」
リーゼはただちに決断した。
「だからこんな夜中に出歩いていたのね。 私の馬車で送るわ。 すぐに乗って!」
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