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二日後の水曜日から、劇場は夏にやるオペレッタの稽古に入った。
女学生のようなおとなしいスカートとブラウス姿で劇場に行ったリーゼは、さっそくギーゼブレヒトから、座付き作曲家のスッペ氏に紹介された。
「掘り出し物なんだ。 まあ一度声を聞いてみてくれよ。 きっとのけぞるから」
立派な髭をたくわえたフランツ・フォン・スッペは、テーブルに楽譜を忙しく広げながらてきぱきとした口調で言った。
「よろしい。 ちょっと歌ってみてくれ。 ア・カペラで」
急に音楽の専門用語が出てきても、リーゼは戸惑わなかった。 ヴァルと別荘で過ごした日々が役に立った。 二ヶ月前は、ピアノのどの鍵がCかさえ知らなかったが、今の彼女は、アカペラが無伴奏の意味だと聞き知っていた。
軽く息を整えて、リーゼは歌い出した。 大好きな、雲雀の歌を。
すぐにスッペの手が動きを止めた。 目が驚きに広がり、短い歌が終わると、握り締めていた手を持ち上げて、ゆっくり打ち合わせた。
「ブラボー! そうとしか言いようがない。 見事だ。 このきゃしゃな体から、よくこんな豊かな声が出るものだ!」
リーゼはさっそく、今夏に上演の決まった『キューピッドの眠り』で役を貰うことができた。 題名通り、キューピッドが夏の午後、ついうとうとと寝込んでしまったために、二組の男女が相手をまちがえて恋をするという話で、リーゼの役は第二の恋人、明るい村娘ダニエラだった。
最初から準主役! スコアをポンと渡されて、リーゼはさすがに上がり気味になった。 楽譜の読み方は、ヴァルのおかげで何とかわかる。 メロディーパートを探して、小さくハミングしてみた。
横に人の近づく気配がした。 聞き覚えのある声が話しかけた。
「そう、その調子。 プリマのお姫様に奉仕した後で、君の分を弾いてあげるよ」
それは、オーディションの時のピアノ弾きだった。 目が合うと、彼は楽譜の束をしっかりとリーゼの胸に抱えさせて、言い残した。
「がっちり持ってるんだよ。 ライバル達に盗まれないように」
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