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本格的な夏が近づいていた。 聖体節のお祭も無事終わり、日照時間はぐんぐん伸びて、野山の緑は人々の遊び心を誘った。
その日曜日、ヴァルはなんだかそわそわしていて、落ち着きがなかった。
つられてリーゼまで不安になった。 二人は別荘の庭にネットを張って、軽めの球でテニスをしていたのだが、上の空のヴァルは、リーゼの緩い返球を二度も逃して、初めてセットを落としてしまった。
嬉しいよりむしろ心配になって、リーゼは二人を隔てるネットに歩み寄った。
「どうしたの? あんな弱い球を受け損ねるなんて。 何か心配事?」
「いや」
しまったという表情で、ヴァルはラケットの枠で自分の頭を軽く叩いた。
「ちょっと計画があるんだが、君にどう話そうかと思って」
「計画?」
「そうなんだ。 雑誌で知ったんだが、金曜にオペラハウスで、新しい合唱団員を選ぶらしい。 それで」
ヴァルは一息挟んだ。
「君も、オーディションに参加してみないか?」
リーゼは目を見張った。 オーディション? あの有名なオペラハウスの超一流合唱団の採用試験?
考える間もなく、リーゼは苦笑いして首を振った。
「そんな大それたこと! 私は、歌うのが好きなだけの素人よ。 正式な訓練を受けた人たちに叶うわけが……」
「天分っていうのは生まれつきなんだよ、リーゼ」
ずしりと重い口調で、ヴァルは遮った。
「いくら訓練しようとも、元がよくなければ一流にはなれない。 君の声は、神の贈り物だ。 聴くのが僕だけじゃ、もったいないよ」
動揺して、リーゼは目を逸らした。 困っているその姿を見ると、ヴァルはラケットをベンチに置いて急いで傍に行き、肩に腕を回した。
「遊びのつもりで行こうよ。 たとえ受からなくても、君には仕事があって困らないんだから。 僕は、君の歌を彼らに聞かせたいんだ。 きっと目を丸くするよ。 誓ってそうなる!」
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