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―126―
もう時間は九時を過ぎ、空はすっかり明けそめていた。 青物を載せた手押し車や、国境へ旅立つ乗り合い馬車が、道を占領し始めている。 その中を、ビットナーが御すリーゼの馬車は、できるだけ速くアイブリンガー邸へと走り戻った。
ユルゲン通りで、リーゼは馬車を降り、正面入口から玄関に向かった。
窓からでも見ていたのだろう。 呼び鈴を押すより早く、白い扉がパッと開いて、空色のドレスに着がえたザビーネが姿を見せた。
「入って」
ヴェールを深く下ろしたまま、リーゼは広々とした玄関の間に足を踏み入れた。
「もらって来た?」
「ええ」
低い声で、リーゼは答えた。 すると、ザビーネはせっかちに手を出した。
「渡して」
この我がまま娘は、きっと手紙を開けて中を読むだろう。 そうされてもいいように、リーゼはヨーゼルブルクに頼んで、蝋で封緘するのを止めてもらっていた。
封筒を受け取ったとたん、走り使いを追い払うように、ザビーネは手を振った。
「もういいわ。 人に見られないように、早く帰って」
その夜のコンサートで、リーゼの声はどうしても湿り気を帯びた。 静かなバラードが演目の中心だったため雰囲気は出たが、客の中には首をかしげる者もいた。
「今日のシュライバー嬢は、ちょっと寂しそうだったね」
「声がところどころかすれていた。 風邪でも引いたんだろうか」
「年末は歌う機会が多いからな。 クリスマスのミサまでには、あの輝かしい声を取り戻してほしいよ」
そして、アイメルトは本気で心配した。 ザビーネ・アイブリンガーの独占欲が、リーゼから歌の情熱を奪ってしまうのではないかと。
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