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―118―
瞬きを忘れてじっと見つめていると、分厚いカーテンがふたたび揺れ、長く裾を引いた白い夜着が合間からのぞいた。
――あれは女だ! 将軍は男やもめだから、屋敷に住む女性といえば…… ――
一人娘のザビーネしか考えられなかった。
その女性は、窓のすぐ内側に立っていた。 静かな夜なので、ヴァルの話は充分聞き取れたはずだった。
リーゼは固く目をつぶった。 ザビーネは、父親のごり押しをどこまで知っているのだろう。 申し込みを断わられてカッとなったとはいえ、こんなやり方で誇り高いヴァルが手に入るわけがない。 たとえリーゼという妻がいなくても、結果は悲劇に終わるだけだ……
ある考えが、稲妻のようにリーゼの脳裏をかすめた。
――そうだ。 これしかない。 一か八かやってみよう。 ザビーネ・アイブリンガーに理性が残っていたら、説得に応じてくれるかもしれない――
窓のカーテンが、ゆっくり閉じた。 それを見て、リーゼはすぐ行動に移った。
二階の窓には、すべてヴァルの部屋と同じバルコニーが張り出している。 ザビーネの右隣の窓下に通用口があって、平らな庇がついていた。 その上に立てば、バルコニーに手が届くはずだ。
リーゼは、庭にある椅子を一つ持ってきて乗り、庇に体を持ち上げた。 幸いバルコニーの囲いは柵になっているため、簡単に掴むことができた。
まず上のバルコニーに上がり、壁に突き出た装飾石を伝って隣のバルコニーにすべりこむと、リーゼは胴に縛ったスカートをほどいて下ろした。 初めから冒険を覚悟していたから、クリノリン(=広がった骨つきペチコート)は着てこなかった。
部屋の中は、ぼうっと明るくなっていた。 ガスランプか蝋燭をつけているらしい。 歩きまわる小さな足音と、溜め息が聞こえた。
やっぱりザビーネも悩んでいるのだ。 こんなに話がこじれるとは予想していなかったのだろう。 恋の情熱とは、ある意味恐ろしいものだ。
リーゼは息を整え、そっとガラスに寄ると、小さくノックした。
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