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―106―
やっぱり…… リーゼの心が暗く波立った。 今書いたのは、サルヴァトーレ枢機卿の受け取った匿名の手紙の字を真似たものだったのだ。
刑事は重ねて質問した。
「同じような手紙を受け取ったことがあるんですな?」
リーゼは唇を噛んだ。
「はい……ある方に宛てた中傷の手紙で、私も見せてもらいました」
「ある方とは?」
「言えません。 身分のある人なので」
「そうですか。 だとすると、この密告状の書き主は、あなたに相当な悪意を持っている人間てことですな」
「たぶん」
暖炉の横に立っていたデーデキント刑事は、渋い表情で少し歩き回ってから、椅子の背に手を置いてリーゼを眺めた。
「そんなに憎まれる心当たりは?」
「わかりません」
そう答えるしかなかった。 ことは殺人事件なのだ。 証拠なしで、疑わしい人物の名前を出すのははばかられた。
デーデキントが若い警官を引き連れて帰った後、リーゼはしばらく窓辺に座っていた。
見た目は疲れてぼうっとしているようだったが、頭の中はめまぐるしく推測が入り乱れていた。
――密告の手紙に書いてあったそうだ。 レナーテの部屋を探せば、私に不利な証拠が出てくると。
それは、結婚証明書のことだろうか? レナーテが誰にも話さなかった秘密を、匿名の人物はなぜ知っているのか?
そう思いたくはないが、この強盗殺人が仕組まれたものだったら……。 レナーテを殺し、私を犯人に仕立てて処刑させる。 それが成功すれば、ヴァルの周りから、すべての女性関係を切り離すことができる……!――
恐ろしい考えだった。 邪悪で、大胆な計画。 おまけに、冷血そのものだ。
いろいろ考えているうちに、頭痛がしてきた。 ともかく、これからどうすべきかは、ビットナーが無事ヴァルに手紙を渡して、返事をもらってくるまでは決められない。 一人で悩んだって仕方がないのだ。
ワインを飲んで早めに寝よう。 そう思ってリーゼが椅子を引いたとき、バルコニーのガラスがピシッという音を立てた。
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