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薫る春
48
江田は、パチパチと激しくまばたきした。
口元が緩んだ。 紗都の問いが、よっぽど嬉しかったらしい。
「俺な……俺さ、木曜に帰る予定」
それから、小声で付け加えた。
「でも、いちおう経営者だから、一日二日は延ばしても平気」
「そうなんだ。 私も、いちおう大学生なんだけど、今日ですごく疲れたから、二、三日はのんびりしたいと思う」
「じゃ、どっか遊び行くか。 明日」
「行こ行こ!」
疲れたと言ったその口で、紗都は大喜びで返事した。
裏口からスッと出るか、表門まで引き返すか、二人は話し合った。 定食屋には表門が近いのがわかって、それなら引き返そうということになり、また仲よく手を繋いで歩き始めた。
母屋が見えてきたとき、不意に玄関のほうから杉本が飛び出てきた。
びっくり人形がポンと現れたぐらい驚いた。 紗都と江田はあっけに取られて、道の真ん中で凍りついた。
腹話術師みたいにほとんど口を動かさずに、江田が囁いた。
「あ……あれ? どうやって俺たちを先回りして……?」
「秘密の通路とか?」
それはそれで、紗都はわくわくした。
杉本の様子はおかしかった。 目がギラついて、明らかに焦っている。 つかつかと二人の前に足を運んで、立ちふさがった。
「あんたたち、何うろうろしてるの!」
「今帰るところです」
「二人とも態度が怪しいのよね」
自分たちのことを棚に上げて、杉本は息巻いた。
「昨日会ったばかりにしちゃ、仲がよすぎる。 ほんとは前から知り合いだったんじゃないの?」
「いい加減にしてくれよ!」
江田が声を尖らせたところへ、登貴枝と夫の肇がパタパタと走ってきた。 そして、ゼイゼイ言いながら杉本に質問した。
「おばさま、いた?」
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