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薫る春
1
人にはそれぞれ弱点がある。
紗都〔さと〕の場合は、父親と名前だった。
佐藤紗都……
あんまりじゃないか。
しかも、この安易な名前をつけた父は、紗都が女優になりたいと言うと、そっくりかえって笑ったのだ。
いいか? 笑ったのだ!
演技力は認められてんだ、と言っても、まったく相手にされなかった。 高校の学芸会に出たぐらいで演技だなどと、片腹痛いわ、とまた笑われた。
行きがかり上、紗都は実力を証明することにした。 父は、許さんと言った。 ガアガアと三日怒鳴り合った後、二人はお互いに妥協した。
父の条件は、大学に通ってちゃんと卒業すること。
紗都の挑戦は、卒業までに女優として自立すること。
手始めに、紗都は家を出て、女子学生用のワンルームマンションを借りた。
できるなら、鉄の階段をギシギシ上がっていく昔風のアパートに住みたかったのだが、父が承知しなかった。
「おまえの身の安全は、ママに託された俺の義務だ。 だから警備のしっかりしたところに住まわせる。 学費と家賃だけはちゃんと払ってやるからな」
しかたない。 ってより、ほんとは助かる。 食費と光熱費、被服費は自前で出すのだから。
後で考えてみて、喧嘩の行きがかりでそう言いきってしまった自分を、バカだと思った。
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風と樹と空と
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