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薫る春
42
だが、紗都は納得しなかった。
「タイミングよすぎるよ。 あの女の言うこと、ぜんぜん信用できない!」
「そうだよな。 あんなの口実に決まってるよ」
もしかして、那賀子夫人にも眠り薬を飲ませて…… ぞっとして、紗都と江田は目を見合わせた。
「那賀子さんの寝る部屋、わかる?」
「ええと……鍵がかかるって言ってたよな。 じゃ、離れのどこかだろう。 他はみんな和室だから」
「だよねっ!」
二人はまた手をつなぎ直し、何くわぬ顔で並木道へ向かった。
だが、母屋から見えにくい場所まで行ったとたん、右へ急旋回して茂みに飛び込んだ。
「急げーっ!」
「ダッシュじゃーっ!」
例えは悪いが、ゲーム感覚に近くなっていた。
大広間から廊下を隔てた向かい側にも、部屋が並んでいた。
二人は手分けして、次々と窓を覗きこんだ。 ゆったりしたバスルームに、小さなキッチンが付属している。 他には、ダンベルやランニングマシーンなどの運動器具が置いてある板の間と、それに、広いベッドルームが二つ……。
右手の部屋では、いくつもある家具すべてに白いカバーがかけられていた。 今のところ使っていないようだ。
もう一つの寝室は淡いグリーンと白で統一されていて、上品な雰囲気だった。 しかも、左奥に見える大型のベッドは、人の形に盛り上がっていた。
「ここだ、ここ!」
その窓を担当していた江田が大きく手招きした。
寝室の窓は観音開きだった。 鍵はかけられてなく、わずかに隙間をあけて、風が通るようにしてあった。
その隙間に、紗都が顔を入れて、そっと呼んでみた。
「奥さん! 吉崎さん!」
返事は、なかった。
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風と樹と空と
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